
私を重たい気持ちにさせた電話
T子は40代の会社員。70代の母Y子は一人暮らしをしており、最近は足腰が弱くなってきました。ある日、電話で母から「もし私が一人で生活できなくなったら、仕事を辞めて面倒を見てね」と言われました。
「お母さんのことは心配だけど、仕事を辞めるのは難しいよ」と答えると、母は不満そうに「育ててもらった恩があるでしょ?」とひと言。T子は返す言葉がなく、電話を切ったあと、重たい気持ちになりました。
何が正解なんだろう……
それから母は、ことあるごとに「娘なんだから、最後まで面倒を見るのが普通よ」「仕事なんて辞めればいいじゃない、今時家でできる仕事もあるんでしょ」と繰り返すように。T子は会社を辞めることまで考え始めました。しかし、今退職すれば収入がなくなり、将来自分が困る可能性もあります。
「お母さんを大切にしたい。でも、私の人生まで全部捨てる必要があるのかな」
悩んだT子は、介護について調べ始めました。そして、介護保険を使った訪問介護やデイサービスなど、家族だけで抱え込まない方法があることを知ったのです。
娘の提案に母は複雑な心境
後日、T子は母の前に一枚の紙を置きました。そこには、母の生活に合わせた介護サービスの利用予定や、T子が仕事の前後にできることなどが書かれていました。「私、仕事は辞めない。でも、お母さんを放っておくつもりもないよ」
母は紙を見ながら、「でも、他人に面倒を見てもらうなんて……」と戸惑います。
するとT子は「私一人で全部やって倒れるより、専門の人に手伝ってもらいながら、お母さんとはちゃんと親子でいたい」と真っ直ぐに伝えました。母はしばらく黙り込み、やがて「そんな方法があるのね」と驚いたように顔を上げました。
一人で全部担うことが恩返しとは限らない
その後、T子は母と相談しながら介護サービスを利用する準備を進めることに。T子が仕事を続けながら定期的に実家を訪ね、必要な部分は介護サービスに頼る形にしました。
以前のように「仕事を辞めて」と言うこともなくなり、母も少しずつサービスを利用することに前向きになりました。T子は改めて「親を大切にすることと、自分の生活を犠牲にすることは同じじゃないんだ」と感じました。
筆者の見解
介護が必要になったとき、家族だけで抱え込まず、介護保険など利用できる制度を調べることは大切です。「親を大切にしたい」という気持ちがあるからこそ、無理を続けるのではなく、長く支えられる方法を考えることは親孝行の一つなのだと考えさせられたエピソードでした。
【体験者:40代、女性、会社員、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


