
怒ってばかり
「あんたはいつも怒ってばかり」
母の日常生活を支えていた頃、時々そう言われることがありました。
母は着替えなど身の回りのことにも介助が必要です。
毎日そばでお世話をしていると、着替えを促したり、次にしてほしいことを伝えたりする場面が何度もあります。
なかなか思うように進まないと、私もつい強い口調になってしまうことがありました。
それでも私としては、母が生活するために必要なことをしているつもりです。
そのため「あんたはいつも怒ってばかり」と言われると、複雑な気持ちになったのです。
弟は優しい
一方、弟が母のところへ来るのは時々で、滞在するのも1~2時間ほどでした。
「大丈夫?」
「変わったことない?」
弟が優しく声をかけると、母はうれしそうに言います。
「やっぱり弟は優しいね」
その言葉を聞くたびに、私は「そりゃ1~2時間なら、私だって優しくできるよ」と内心モヤモヤ。
毎日母と向き合い、身の回りのことを手伝っている私と、時々顔を見せる弟では、接している時間も担っていることも違います。
それなのに比べられているように感じてしまったのです。
母が欲しいもの
ところが「弟は優しい」という母の言葉が、しばらく心に残りました。
確かに弟と私では、母と接する時間も役割も違います。
けれど、それとは別に考えなければならないことがあるのではないかと思うようになりました。
母に必要なのは、着替えなど生活するための介助だけではありません。
できないことが増えていく中で「大丈夫?」と優しく声をかけてもらったり、自分の気持ちを気にかけてもらったりすることも、母は求めていたのかもしれません。
「私だって毎日大変なんだから」と思うだけではなく、私自身の接し方も少し変えてみようと考えました。
筆者の見解
それから私は、強い言葉をかけそうになったとき、一度深呼吸してから話すようにしました。
「これを自分が言われたら、嫌な気持ちにならないかな」
そう考えて言葉を選ぶと、自分も冷静になれます。
もちろん、いつも穏やかでいられるわけではありません。
それでも接し方を意識するうちに、母の笑顔も以前より増えました。
最初は悔しかった「弟は優しい」という言葉でしたが、自分の接し方を振り返るきっかけになったのです。
介護をする中で、いつも優しく接することは簡単ではありません。
それでも、強い言葉が出そうなときに一度立ち止まり、相手がどう感じるかを考える。
その小さな心がけが、お互いに気持ちよく過ごす助けになるのかもしれません。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2021年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


