
妊娠中に分かった病気
結婚後、初めての子どもを妊娠した母は、その妊娠中に心臓の病気が見つかりました。
当時、暮らしていた県では必要な手術を受けることができず、隣県の大学病院で心臓の手術を受けることに。
さらに自分の命を守るため、妊娠していた子どもを諦めなければなりませんでした。
初めての妊娠を喜んでいた矢先に病気が分かり、妊娠を断念したうえ、大きな手術まで受けることになったのです。
婚家からの言葉
そんな時、婚家からは思いがけない言葉を向けられました。
「持ってきた病気だから、そちらでどうにかして」
結婚する前から母が持っていた病気なのだから、婚家ではなく実家側で対応するものだという考えだったのでしょう。
病気になった本人を前にしても「どちらの家の問題なのか」で線を引く。
母は何十年たっても、この時に言われた言葉を覚えていました。
祖父の腕に紐
隣県の大学病院に入院した母を実際に支えてくれたのは、祖父やきょうだいでした。
入院中は、夜中にトイレへ行く時にも付き添いの人に手伝ってもらう必要があります。
しかし、祖父は眠ってしまうとなかなか起きません。
そこで祖父の腕に紐をつけておき、トイレへ行きたくなった時には、その紐を引っ張って祖父を起こしていました。
遠方の病院まで来て、夜中もそばで支えてくれた祖父やきょうだい。
その助けを受けながら、母は心臓の手術を乗り越え、その後は生活を立て直し、のちに子どもにも恵まれました。
筆者の見解
それから何十年もの月日がたっても、母は当時の出来事を筆者に話していました。
約60年前と現在では、結婚や家族についての考え方も大きく異なります。
当時の価値観を、現在の基準だけで判断することはできないでしょう。
それでも、婚家から向けられた言葉と、遠方まで来て付き添い、夜中まで支えてくれた実家の家族。
その両方を母が長く覚えていたことが印象に残っています。
人生の大きな困難に直面した時「どちらの家の問題なのか」と線を引くのではなく、目の前で困っている家族をどう支えるのか。
苦しい時に向けられた言葉や、差し伸べられた手の記憶は、時代が変わっても長く心に残るものなのだと感じています。
【体験者:母・当時20代女性(筆者が生前、本人から直接聞いた体験談)、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


