
「おい」「お前」ばかりの父
40代のAさんは、子どもの頃から父親に名前で呼ばれた記憶がほとんどありません。父が口にするのは、いつも「おい」や「お前」でした。
「A、ちょっと来い」なんて呼ばれたことはなく、用事があるときも「おい、これ持ってこい」「お前、宿題はやったのか」といった調子だったのです。
友達がお父さんに名前で呼ばれる話を聞くたび、Aさんは少し寂しい気持ちになりました。
父とは距離があった
思春期になると、Aさんはますます父と話さなくなりました。
父も積極的に話しかけてくるタイプではなかったため、必要なこと以外は会話をしないのが当たり前に。この頃からAさんは「もしかすると、父は私のことをあまり好きではないのかも」と考えるようになりました。
大人になり、実家を離れてからはさらに距離ができ、電話やメールをすることもまったくありません。
そんなある日、実家の片付けをしていたAさんは、父が昔使っていた古い手帳を見つけたのです。
手帳に書かれていたのは
何気なくページをめくったAさんは、思わず手を止めました。
そこには、Aさんの名前と誕生日が書かれていました。さらに「好きな食べ物」「苦手なもの」「小学校の入学式」「初めて自転車に乗れた日」など、Aさんに関することがびっしり書かれていたのです。
「こんなに覚えていたの!?」
驚いたAさんが母に尋ねると、母は笑ってこう言いました。
「あなたの名前を呼ぶのが恥ずかしかったのよ。昔からあの人、口下手だったから」
筆者の見解
父親は、娘に関心がなかったどころか、誰よりも細かく成長を見守ってくれていました。
名前で呼ぶことはできなくても、手帳にはAさんへの思いが残されているのがわかります。
Aさんはその日から、父の「お前」という呼び方を少し違った気持ちで聞けるようになったそうです。
親の愛情表現は、必ずしも分かりやすい形とは限りません。言葉では伝わらなかった感情が、思いがけない場所に残っていることもあるのかもしれませんね。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2026年8月】


