
仕事人間の父
幼少期から、父に対して仕事人間という印象しか抱けていませんでした。
早朝に出勤し、夜遅くまで残業してくるのは当たり前。数日家を留守にすることもしばしばありました。
仕事疲れがあるのは分かっていたものの、その分家ではぐうたらしているようにしか見えず。
家事はまったくせず、食事の後の食器さえシンクに運ぶわけでもなく母にすべて任せきり。
家での姿しか知らないこともあり、正直尊敬できるところが見つからなかった私。
むしろ、母が私を含め4人の子育てと家事で忙しそうにしているのを見るたびに『お父さんも少しは手伝えばいいのに』と父に腹を立てるほどでした。
ほぼ関わらなくなった
私が高校生のとき、相変わらず家事を何もしない父にうんざりして、
「お母さんばかり大変だよ」
と直接苦言を呈してみたことがあります。
それでも父は、
「お前には関係ない」
とぶっきらぼうに返し、まだ話そうとしている私を置いて寝室に行ってしまいました。
その冷たい態度にうんざりして以来、父とはほぼ喋らず、就職とともに実家を出てからはもっと関わらなくなっていったのです。
父の死
それから十数年後、突然父の訃報が届きました。
母を心配してすぐに実家に帰った私に、母は涙を浮かべて、
「お父さんはお父さんなりにずっと頑張ってきてくれたのよ」
と数冊の通帳を見せてくれたのです。
そこには、長年にわたり母名義の口座へ父の給料のほとんどが振り込まれていました。
父の想い
「お父さん、家事はできなかったけど、家族を守ることだけは誰にも負けない人だった」
「私があなたたちの育児に集中できたのもお父さんが一生懸命稼いでくれたからよ」
そう言って母は涙を拭いながら笑っていました。
『お父さんの一部分だけ見て決めつけていた』とそこで初めて気づき悔やんだ私。
その後は母と父の思い出を語り合い、
「知らないまま終わらなくてよかった」
と母の手を握りました。
筆者の見解
親子であっても、相手のすべてを知っているとは限りません。
愛情を言葉ではなく行動やお金、責任という形で示す人もいます。
気になることがあるなら元気なうちに、
「どうして?」
と根気強く尋ねたり周囲に聞いてみたりすることが、後悔を減らす一歩になるのかもしれません。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


