
関わらなかった父と積み重なった距離
これは知人Kさんから聞いた話です。
その家庭では、夫はこれまで育児にほとんど関わってきませんでした。
子どもの行事にも興味を示さず、伝えても忘れるかスルー。
しかし自分の予定だけはしっかり覚えて優先します。
入学式や運動会でさえ「行かなくていい」と言い放ち、休日も子どもと過ごすことはほとんどありません。
育児はほぼ母親のワンオペ状態でした。
「このまま一人で育てた方がいいのでは」
そう思い、離婚を考えたこともあったといいます。
娘の誕生で変わり始めた父の態度
そんな中、長男が小学4年生の頃、第ニ子を妊娠。
生まれたのは女の子でした。
夫はこれまでが嘘のように喜び、そこから少しずつ子どもたちに関心を持つようになります。
さらに職場で、上司が「息子とキャッチボールをしている」と話していたことに影響を受けた夫は、自分も同じように息子に関わろうとグローブを購入。
しかし、息子の反応は冷たいものでした。
「キャッチボールなんて嫌い。やりたくない」
これまで関わってこなかった父親との距離は、そう簡単には埋まりませんでした。
それでも関わろうとする父親に対し、息子はこう言いました。
「じゃあ、パパ。ゲーム買って」
珍しく甘えるようなその言葉に、夫は喜び、すぐにゲームを購入します。
しかし、実はこのやり取りの前に、息子は母親にこう話していたそうです。
「ゲーム機、欲しいけど高いから自分では買えない」と。
そして父親に頼んでみようとも考えていたそうです。
Kさんはあえてその話を聞いても止めませんでした。息子が大きくなってから父親に求めた唯一のお願いだったからです。
息子にとって父親は、普段あまり一緒に過ごしていない存在。
だからこそ、「本当に買ってくれるのかな?」と不安に思いながらもゲームをお願いしたのも、息子なりに考えた行動だったかもしれません。
しかし、そのゲームは1台では一緒に遊べないタイプのもの。結果的に一緒に遊ぶ時間は生まれません。
皮肉にも、それは父子の距離を浮き彫りにする出来事となりました。
気づいた父と、変わり始めた関係
思い通りにいかず怒る夫に対し、母親ははっきりと伝えました。
「それだけ関わってこなかった結果でしょ。自業自得よ」
さらに職場でも上司に相談したところ、同じような指摘を受け、夫はようやく現実と向き合います。
父親としての時間を、自分は作ってこなかった。その事実に気づいた瞬間でした。
それをきっかけに、夫は子どもと向き合うようになります。
子ども行事にも参加し、話しかけ一緒に出かけたりと積極的に関わり、少しずつ距離を縮めていきました。
最初は距離を置いていた息子も、徐々に心を開いていきます。
そしてある日、息子の方からこう声をかけました。
「パパとキャッチボールしたい」
その一言が、何よりの変化を物語っていました。
体験者の声
失った時間は簡単には戻りません。
それでも、向き合おうとすることで、少しずつ関係は変わっていくのかもしれません。
休日、公園でキャッチボールをする父と息子の姿を見ながら、Kさんはそう感じたそうです。
【体験者:40代・事務職、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


