
任せておけば安心だと思っていた
父が亡くなり、葬儀や役所への届け出など、慌ただしい日々が続いていた頃のことです。
兄が「相続のことは全部俺がやるから任せておけ」と宣言し、率先して動いてくれることになりました。
昔から何でも要領よくこなす兄だったので、私は「兄に任せておけば大丈夫」と深く考えず、その言葉を信じ切っていました。
一枚の書類に覚えた違和感
それからしばらくして、兄から「相続放棄の手続きをするから、この書類に署名して」と書類を渡されました。
「実家は俺が管理するし、放棄したほうがお前も楽だろ」
「財産なんてほとんどないし」
と、兄は軽い口調で説明してきましたが、私はなぜか胸の奥がざわつきました。
あまりにも話が簡単すぎる気がしたのです。
母も「お兄ちゃんに任せておけばいいじゃない」と言っていたため、自分が疑い深いだけなのかと、しばらく悩んでしまいました。
司法書士の一言で凍りつく
結局、一人で判断するのが怖くなった私は、知り合いの司法書士へ相談しました。
すると、「相続放棄は実家だけではなく、預貯金などすべての権利を放棄することです。言われるがままに署名するのは危険ですよ」と説明され、思わず言葉を失いました。
司法書士と一緒に財産を確認していくと、父には私も知らなかった資産があることも判明。
その内容について、兄から十分な説明を受けていなかったことにも気づきました。
「家族だからこそ、内容を理解せず署名してはいけません」
司法書士のその一言を聞いた瞬間、危うく取り返しのつかないことになるところだったと、背筋が冷たくなりました。
確認する勇気
結局、私は相続放棄をせず、正式な手続きを経て公平に相続を進めることを選びました。
親族からも「こんなに重要なことなのに、説明が足りない」と指摘されると、兄はそれ以上何も言い返せませんでした。
あのとき、そのまま署名していたら……と思うと今でも怖くなります。
信頼は大切ですが、自分の名前を書く以上、内容を理解する責任があると痛感しました。
今は「家族だから」と任せきりにせず、自分でも内容を理解し、納得してから手続きを進めるようにしています。
筆者の見解
家族だからこそ、遠慮や思い込みがトラブルの原因になることもあります。納得して判断するために確認することは、相手を疑うこととは違いますよね。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


