筆者の友人A子の話です。同僚の妊娠報告に、素直に喜べなかった日のことを、A子は今も忘れられないと言います。
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先に頭に浮かんでしまったシフト表

人手不足が続く保育園で働くA子にとって、その朝の出来事は突然のことでした。
職員会議後、同僚のB美が「少しだけ時間をもらえますか」と口を開きます。

「実は、私事ですが妊娠しました。現在4ヶ月です」

おめでとう、という言葉よりも先に、頭の中にシフト表が浮かんでしまいました。
それはA子だけではなかったはずです。

「今、一番忙しい時期なのに」

誰かがそっとつぶやいた言葉を、誰も否定しませんでした。
A子も笑顔で「おめでとう」と言いながら、素直に祝福しきれないことに後ろめたさを感じていました。

じわじわと生まれる距離

それからのB美の様子は、少しずつ変わっていきました。
休憩室で輪の外に座ることが増え、ランチをひとりで食べている姿をA子は何度か目にしました。

声をかけたい気持ちはありました。
でも何を言えばいいかわからず、いつもタイミングを逃してしまいました。
温かくフォローしているつもりが、どこか義務感によるものに近くなっていました。

「4年間、誰にも言えなかった」

転機は、B美が産休に入る直前。
ふたりきりになった帰り際、B美がぽつりと話し始めます。

「実は不妊治療を4年間続けてたんだ。職場には言えなくて、突然のお休みは難しいことも多かったけど、言ってしまったら逆に休めなくなる気がして……」

A子は言葉を失いました。
早退していたあの日も、重い荷物を誰かに頼んでいたあの日も、全部そうだったのかもしれない。

「妊娠がわかっても、また流れてしまうんじゃないかって怖くて。だから報告もすぐにはできなくて……」

あの朝の沈黙が、A子の頭によみがえりました。
おめでとうよりも先にシフト表を思い浮かべた、あの瞬間が。

翌日、A子はみんなにB美の話を伝えました。
その場にいた全員が、しばらく黙ったままでした。
B美が戻ってくる日に向けて、今度こそ心から迎えようと、全員で話し合いました。

体験者の声

あの朝に戻れるなら──A子は今もそう思っているそうです。

【体験者:30代・女性・保育士、回答時期:2026年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:K.Matsubara
15年間、保育士として200組以上の親子と向き合ってきた経験を持つ専業主婦ライター。日々の連絡帳やお便りを通して培った、情景が浮かぶ文章を得意としている。
子育てや保育の現場で見てきたリアルな声、そして自身や友人知人の経験をもとに、同じように悩んだり感じたりする人々に寄り添う記事を執筆中。ママ友との関係や日々の暮らしに関するテーマも得意。読者に共感と小さなヒントを届けられるよう、心を込めて言葉を紡いでいる。

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