筆者の友人A子の話です。夫と結婚して15年、日常会話といえば「ごはんできてるよ」「了解」「明日ゴミの日」程度。周囲からは心配されることもあるけれど、家族は普通に回っている。そんなA子が、ある夜ふと気づいた「私たち夫婦のかたち」についての話です。
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「それって仮面夫婦じゃない?」

友人とのランチで、誰かが聞いてきました。

「ねえ、夫婦って1日どのくらい話してる?」

「うちは1時間くらいかな」「私たちも多いほうだと思う」と声が上がる中、A子だけが黙っていました。

正直に言えば、夫との会話は「お風呂沸いてるよ」「ありがとう」「今週末、参観日だから」程度。それ以上でも以下でもない。でも不満があるわけでも、夫のことが嫌いなわけでもない。

「えっ、それって仮面夫婦じゃない? 大丈夫?」

笑顔で言われた一言が、その日からじわじわと頭に残り続けました。

「普通の夫婦」って、なんだろう

帰宅してからも、なんとなく気になってスマホで調べました。

「夫婦 会話なし」で検索すると、出てくるのは「すれ違いが離婚の原因に」「会話ゼロは危険サイン」という見出しばかり。読めば読むほど、自分たちがまるで問題のある夫婦のように思えてきます。

でも当の夫は、今日も普通に帰ってきて、普通に夕飯を食べて、普通に寝ています。怒っているわけでも、冷めているわけでもなさそう。

「うちって、おかしいのかな」

答えが出ないまま、数日が過ぎました。

私たちは言葉なしで動いていた、あの夜

転機は、突然やってきました。

深夜2時すぎ、子どもが「お腹痛い」と言いながら起き上がりました。額に手を当てるとひどく熱い。
熱が出たのもかなり久しぶりで、体温計を探しながら、A子は半分パニックになっていました。
解熱剤はどこだったか、冷却ジェルシートはまだあったか、念のため着替えも用意しておくべきか──頭の中がぐるぐるしているうちに、夫がいつの間にか起き上がり、財布だけ持って玄関を出ていきました。

戻ってきた夫が手にしていたのは、解熱剤と冷却ジェルシート。
A子が子どもの着替えと保険証を準備している間に、夫はスマホで近くの救急対応クリニックを調べ、かかりつけ小児科医の翌朝の受付時間とともに、メモに書いて冷蔵庫に貼っておいてくれていました。

一言の相談もなかった。
役割を決めたわけでもない。それなのに、動きがきれいに噛み合っていたのです。

うちは、うちのやり方でいい

後日、友人に「仮面夫婦じゃないと思う」と報告すると、「どういうこと?」と首を傾げられました。

うまく説明できなかったけれど、「なんか、うちはうちのやり方があるみたいで」と言うと、「それが一番いいかもね」と笑ってくれました。

体験者の声

会話が多ければいい夫婦、少なければダメな夫婦──そんな単純な話ではないのかもしれない。
15年かけて積み上げてきたものが、言葉ではなく行動に宿っていた。
A子はそのことを、今もひとりでじんわり噛みしめています。

【体験者:30代・女性、会社員 回答時期:2026年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:K.Matsubara
15年間、保育士として200組以上の親子と向き合ってきた経験を持つ専業主婦ライター。日々の連絡帳やお便りを通して培った、情景が浮かぶ文章を得意としている。
子育てや保育の現場で見てきたリアルな声、そして自身や友人知人の経験をもとに、同じように悩んだり感じたりする人々に寄り添う記事を執筆中。ママ友との関係や日々の暮らしに関するテーマも得意。読者に共感と小さなヒントを届けられるよう、心を込めて言葉を紡いでいる。

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