
嫁入り道具
Aがミシンを粗大ごみに出したのは、結婚して何十年もたってからでした。
そのミシンは、結婚する際に嫁入り道具として持たされたものでした。
「子どもができたら必要になるから」
母にそう言われ、Aも特に疑問を持ちませんでした。
当時は、結婚した女性が家事や育児を担うのが当たり前とされていた時代です。
子どもが生まれたら母親が手作りの物を用意する。
そんな考え方も、ごく自然なものとして受け入れられていました。
苦手な裁縫
ところがAは、もともと裁縫が得意ではありませんでした。
子どもの入園準備で袋類が必要になった時も、自分で作る自信がありません。
結局、実母に頼んで作ってもらうことになったのです。
ミシンを使ったのは、その前後に数回程度。
せっかくミシンがあるにもかかわらず、押し入れにしまわれたまま年月が過ぎていきました。
その後も雑巾を作るくらいで出番はほとんどありません。
掃除のたびに目に入るものの「いつか使うかもしれない」と処分できずにいたのです。
手放す決意
転機になったのは、家の片づけをしていた時でした。
押し入れの奥から出てきたミシンには、うっすらとほこりが積もっています。
最後に使ったのがいつだったのかも思い出せません。
Aは改めて考えました。
「もう使わない」
そう判断し、粗大ごみに出すことを決めたのです。
押し入れの奥で場所を取り続けていたミシンを前に、Aはしばらく処分するかどうか迷いました。
けれど同時に「母親なら手作りして当たり前」という考え方を、自分がずっと抱えていたことにも気づいたのでした。
変わる価値観
最近は、手芸が得意な人が作品を販売する機会も増えています。
入園や入学に必要な袋類を注文できるサービスも珍しくありません。
ミシンを手放した時、Aは「母親ならこうあるべき」という思い込みも一緒に手放せたような気がしました。
あのミシンを処分したことで、Aは親に求められる役割や価値観も変わってきたのだと改めて感じたのでした。
筆者の見解
得意な人が作り、必要な人が利用する。
そんな選択肢が自然に受け入れられる時代になりました。
苦手なことを無理に抱え込まず、人の力を借りることも一つの方法です。
【体験者:50代・女性主婦、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。

