仕事帰りの電車内で、赤ちゃんの泣き声に周囲がピリつき始めたとき、誰も予想しなかった人物が場の空気を一変させて——。

電車内に響く、赤ちゃんの泣き声
ある日の、仕事帰りの電車内で起きた出来事です。
「今日も疲れた……」とぐったりしていると、車内に赤ちゃんの泣き声が響き始めました。
その甲高い泣き声は、どんどん大きくなり、いっこうに止みません。
仕事で疲れた身体に、赤ちゃんのギャン泣きはこたえます。
正直、はじめはイライラしてしまったのですが、必死に赤ちゃんをあやしながら、「すみません」と周りに頭を下げるお母さんの姿が見えると、「大変だな」と思わざるをえませんでした。
ピリつく電車内
とはいえ、疲れ切った乗客たちで混み合うこの時間ですから、だんだんと車内の空気はピリつき始めていきます。
おもむろに顔をしかめる人、わざとらしくため息をつく人――。
なかには、「うるせぇな」と聞こえるように呟く人や、「チッ」と舌打ちする人まで現れました。
気の毒に、赤ちゃんのお母さんは恐縮しきっていて、今にも泣きそうな顔になっているのがわかりました。
「いないいない、ばぁ!」
そのときです。
近くにいた5〜6歳くらいの男の子が、突然お母さんの手をふりほどき、乗客の間をくぐり抜けて、赤ちゃんのそばへ寄っていきました。
そして――。
「いないいな〜い……ばぁ!!」
と、全力で赤ちゃんをあやし始めたのです。
赤ちゃんは、目をまんまるくして男の子を見つめたかと思うと、次の瞬間、「きゃっ」と声を出して笑いました。
男の子は嬉しそうに、何度も「ばぁ!」と繰り返します。赤ちゃんはますますケラケラと笑い、さっきまでギャン泣きしていたのが嘘のようです。
その光景はとても微笑ましく、こちらも思わず笑顔になってしまいます。
気づけば、さっきまでため息をついていた男性まで、ニコニコ顔。
ピリついていた車内の空気が、一気に和らいでいきました。
小さな男の子に、教わったこと
「ぼく、本当にありがとうね」と、嬉しそうにお礼を言う赤ちゃんのお母さんに対し、男の子は笑顔で答えました。
「ぼくだって、赤ちゃんのとき、いっぱい泣いてたんだって! だから今度は、ぼくがヨシヨシしてあげなくちゃ」
男の子のまっすぐな優しさに、心を打たれたのは私だけではなかったと思います。
私含め、大人たちのほうが、泣き声にイライラするばかりで、自分のことしか考えていませんでした。
でもあの男の子は、他者を思いやり、自分にできることを考えて、行動したのです。
私たちよりもずっと大人な対応をしてみせた小さな男の子に、頭が下がる思いでした。
あれ以来、私も公共の場で困っている人を見かけたら、積極的に声をかけるようになりました。
そんなとき、まるであの男の子に背中を押されているような気がしています。
【体験者:40代女性・会社員、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:大城サラ
イベント・集客・運営コンサル、ライター事業のフリーランスとして活動後、事業会社を設立。現在も会社経営者兼ライターとして活動中。事業を起こし、経営に取り組む経験から女性リーダーの悩みに寄り添ったり、恋愛や結婚に悩める多くの女性の相談に乗ってきたため、読者が前向きになれるような記事を届けることがモットー。

