
深いため息
ある日、知人のTさんが深いため息をつきながら、私に相談をしてきました。
Tさんは高学歴で経済的にも恵まれ、誰の目にも不自由なく暮らしている様に見える人です。
でも、その日の彼女は、ひどく落ち込んでいました。
報われない日々
Tさんの落ち込みの理由は、高校生の娘さんの進学についてでした。
Tさんは真面目な性格ゆえ、娘の為に常に進路先を丁寧に調べて、将来、良い選択ができる様に奔走していました。
ところが当の娘さんは他人事の様に構え、進路先に提出する大事な課題も後回しにした結果、チャンスを逃してしまったのだそうです。
さらにTさんの日常には、高齢のご両親の介護という重荷もありました。
真面目な性格のTさんは自分の家庭の事も完璧にこなしつつ、遠方に住むご両親のお世話にも毎週通っています。
はた目には何不自由ない暮らしに見えても、家庭の中で誰かの為に動き続ける毎日。
「私しかやる人がいないの。頑張っているのに報われない。皆、私がやって当然だと思っているし、もう虚しくて食欲もない」と語る彼女の姿に、私は言葉を失いました。
避けられない痛み
世の中には、お金や学歴があれば幸せになれるという風潮があります。
確かに経済的な余裕は多くの問題を解決してくれるでしょう。
しかし、人の気持ちや人生の選択までは買う事はできません。
どれだけ恵まれた環境にいても、家族の事で悩み、思い通りにならない現実に苦しむ事は人として避けられないのだと気づかされました。
そっと気づく心
人は皆、それぞれ見えない荷物を抱えて生きています。
大切なのは、その荷物の重さを競う事ではなく、互いの抱えている荷物にそっと気づいてあげられる心を持つ事ではないでしょうか。
真面目な性格故に抱え込んでしまうTさん——。
Tさんとの時間は、人の痛みは外側からは決して見えないのだという、当たり前でいて忘れがちな真実を、再認識させてくれました。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢佑菜
管理栄養士の資格を持つ、2人の自閉症男子のママ。自身の育児環境の変化をきっかけに、ライター活動をスタート。食と健康を軸に、ライフスタイル全般のコラムを得意とし、実体験に基づいたリアルな記事を執筆中。専門的な情報を「わかりやすく、すぐに日常に取り入れられる形」で伝えることが信条。読者の「知りたい」に寄り添い、暮らしを整えるヒントを発信しつづけている。

