
噂の的だった新入社員
新入社員の配属が始まった頃、私の部署ではAさんという一人の新人が話題になっていました。
Aさんは、どんな時も堂々としていて、上司に対しても物怖じしません。
緊張で声が上ずったり、失敗をしてしまう新人も多い中、彼女だけは妙に落ち着いて見えました。
ある意味「異質」なその雰囲気に、部署では「実は役員の親戚らしい」「コネがあるから余裕なんじゃない?」という噂まで出ていたのです。
私は噂話に加わることはないものの、Aさんの揺るぎない態度を見て、「きっと恵まれた環境で育ったのね。もともと自信がある人は違うな」と、どこかひねくれた気持ちで見ていたところがありました。
偶然耳にした電話
しかし、数か月後の残業中のこと。
人気のない休憩スペースを通りかかったときに、私はAさんが小声で電話をかけているのを聞いてしまったのです。
盗み聞きするつもりはなかったのですが、「今月も仕送りは何とかするから」という言葉が耳に入りました。
相手は家族なのか、家計のやりくりや、実家に残る弟妹のこと、病気がちな親のことについて話しているようでした。
普段の堂々とした姿からは想像できないような、張り詰めた声でした。
レッテルを貼っていた自分
自分の考えがいかに浅はかだったかを思い知らされました。
勝手に彼女の背景を想像し、勝手にレッテルを貼っていたのは私自身だったのです。
あの落ち着いた態度も、もしかしたら彼女なりに必死だった結果なのかもしれません。
私が勝手に思い描いていた“Aさん像”は、現実とはずいぶん違っていたのだと思います。
見えていなかった本当の姿
Aさんが抱えている苦労も知らず、ただの先入観で彼女の人間性まで決めてかかっていた自分が、たまらなく恥ずかしく思えました。
それ以来、私は噂話に耳を貸すことをやめました。
相手がどういう人生を歩んできたのか、どんな重荷を背負っているのかなんて、誰にも分からないのです。
たとえ親しい同僚や友人であっても、それは同じことでしょう。
あの日以来、誰かについて聞いた話や、目に見える部分だけで判断するのはやめようと思うようになりました。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2026年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。

