
階段で感じた後ろの圧
妊娠7ヶ月に入り、お腹が目立ち始めた頃のことです。
その日は体調が悪く、駅の階段を手すりにつかまりながら、慎重に降りていました。
すると後ろから急かすような足音が近づいてきて、突然肩を小突かれたのです。
「妊婦は歩くの遅くて邪魔なんだよ!」という低い声とともに受けた衝撃。
見ると、男性が険しい表情でこちらを睨みつけながら、私を追い越して去っていこうとしていました。
ショックで足がすくみ、体が固まりました。
とっさにお腹をかばうことしかできず、「もし転んでいたらどうなっていたんだろう」と考えた瞬間、怖さで手が震えました。
周囲の人たちも気まずそうに目を逸らしていて、まるで自分が悪いことをして責められているような惨めな気持ちになっていた、そのときです。
駅員さんの言葉
「そこのあなた! 危険行為ですよ!」と、大きくハッキリとした声が響きました。
視線を上げると、ホームにいたベテラン駅員さんが駆け寄り、男性の前に立って制止しているところでした。
「今の行為は防犯カメラに映っています。警察を呼びますか?」
駅員さんの言葉に、男は顔を真っ赤にし、何かブツブツ言いながら去っていきました。
優しい対応
それから駅員さんは、私を駅務室へ連れて行き、「お怪我はありませんか? 怖かったですね」と優しく声をかけてくれました。
張り詰めていた気持ちがそこで一気に緩み、私はしばらく言葉が出ませんでした。
そして駅員さんは、私が少し落ち着くと、「防犯カメラの映像をもとに、後からでも被害届は出せます。映像提供も協力しますからね」とも言ってくれたのです。
忘れられない出来事
泣き寝入りしなくていい、自分は悪いことはしていないのだ、という事実に、私は心の底から救われました。
世間の冷たさに絶望しかけたけれど、ああいう場面でちゃんと声を上げてくれる人がいることにホッとして、涙が止まりませんでした。
あのとき声をかけてもらえたことは、今でも忘れられません。
私も、困っている人を見かけたら、見て見ぬふりはせず、手を差し伸べたいと思いました。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2026年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。

