筆者の話です。
母は施設で暮らしており、もうお正月に帰省することはありません。
それでも、母の味が恋しくて、市販のお節を用意するようになりました。
重箱を開けるたびに――あの台所の光景と、黒豆の香りがよみがえります。

黒豆の香りが運んでくるもの

そんな気持ちで一品ずつ味わっていたとき、黒豆を口に入れた瞬間、ふと鼻の奥に懐かしい香りが広がりました。
私は黒豆が好物で、毎年つい食べすぎてしまうので、母は足りなくなると市販のものを買い足していたのです。
手作りの甘さと市販の味が混ざる、あの感じが何とも懐かしくて。
ああ、この味だ、と思いました。

黒豆を煮るときに立ちのぼる、あのやさしい湯気と甘い香り。
足りなくなったから買ってこなくちゃと買い物に走る母の背中。
その記憶が、静かに胸の奥に広がっていきました。

懐かしさと感謝の重箱

もう二度と食べられない味だけれど、あの味があったから今の私がいる。
母の手で守られてきた家庭の味は、私の中で確かに生きています。

「こうして母も、家族の幸せを祈りながらお節を準備していたのだろう」
お節をひらくたび、懐かしさと「ありがとう」が胸に広がる。
今年もまた、懐かしさと感謝が、静かに胸に広がりました。

【体験者:50代女性・筆者、回答時期:2025年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。

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