親子、特に母親と娘の関係は、近すぎるがゆえに複雑なものです。良かれと思って口にした言葉が、いつの間にかすれ違いを生んでしまうことも少なくありません。今回は、筆者の友人が母親とのエピソードを聞かせてくれました。
画像: 「また彼氏?」恋愛に口うるさい母。「嫉妬してこないでよ」→ 母の『告白』を聞き、自分を恥じたワケ

私の恋は、いつも母の不機嫌の原因だった

母は、昔から私の恋愛にとても厳しい人でした。

「そんな派手な格好して」「また彼氏?」が母の口癖。
大学時代に彼との旅行を報告すれば「浮かれすぎよ」と釘を刺され、社会人になってからも、恋人の話をすると露骨に顔をしかめます。

もしかして、母が経験できなかった青春を謳歌する娘に、嫉妬しているのだろうか……。
そう思うことでしか、母の頑なな態度を理解することができませんでした。

母の知られざる過去

そんな母への不満が募っていたある日、親戚の集まりで叔母が何気なく口にした言葉に、私は耳を疑いました。

「お母さんも昔は大変だったのよ。うんと若い頃に、一度離婚してるから」

母が、離婚……?

初耳でした。まさか、父と結婚する前に別の男性と結婚していただなんて。
しかし家に帰り、恐る恐る母に尋ねると、母は静かに、そして小さく頷いたのです。

母がこんなにも弱さを見せたのは、初めてのことでした。

母が心にしまっていた過去

母はぽつりぽつりと語り始めました。

若い頃、勢いだけで結婚した相手は働かず、浮気もするような人だったこと。
誰にも頼れず、たったひとりで借金を返済し、心身ともにすり減る思いで離婚したこと。
「恥ずかしくて、誰にも言えなかった」と。

そして、涙を浮かべてこうも言いました。
「だから、あなたが恋をするのが怖いの。昔の自分と重なって……。口うるさく言って、本当にごめんね」

嫉妬なんかじゃなかった。
「娘には自分と同じ思いをさせたくない」という、切ない親心だったのです。

ようやく素直になれた私たち

母の告白を聞いて、私は自分の未熟さを恥じました。
母はただ口うるさいだけじゃなかった。深い傷を抱えて生きてきた、ひとりの女性だったのです。

その日から、私たち親子を隔てていた壁は、少しずつ溶けていきました。
私が意地を張るのをやめると、母も驚くほど穏やかになり、今では私の恋の相談に「その人、どうなの?」なんて笑いながら乗ってくれるように。

母の言葉の裏にあった不器用な愛情を知り、私たち母娘は、初めて心から向き合えた気がします。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。

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