デパ地下やスーパーでよく見かける試食販売。ほんの一口のサービスですが、提供する側には細かいルールと責任があるようです。これは、筆者が知人のA子から聞いた、ちょっとした出来事。でも、その「ちょっとした」判断が、大きなリスクにつながることを、彼女はこの経験から深く実感しました。

ルールを貫く勇気

一瞬ためらいましたが、すぐに尋ねました。

「ご家族の方ですか?」

「違うわよ。でも、ケチくさいわね」

と不機嫌そうに返されました。

女性は、善意のつもりだったのかもしれません。でも、私はやはりお渡しするわけにはいきませんでした。

「申し訳ありません。会社の決まりなので、保護者の方がいないとお渡しできません」

女性はため息をつきながら、あからさまに不快な態度でそこに立ち続けました。

私は心の中で「これで良かったのか」と自問しながら、少しだけ肩に力が入っていたのを覚えています。

母親の言葉が教えてくれたこと

そのとき、売り場の向こうから「◯◯!」と呼ぶ声、男の子の母親が駆け寄ってきました。目を離した一瞬のうちに子どもが離れてしまったようです。

母親は私に小さく頭を下げ、男の子に優しく言いました。

「このパン、食べたかったの? でもね、ブツブツができてかゆくなっちゃうから、食べられないのよ。他に美味しそうなもの、探そうね」

「この子、小麦アレルギーなんだ!」そう気づいた瞬間、私は心の底からホッとしました。もしあのとき渡していたら……。想像するだけで、背筋がぞっとしました。

ふと横を見ると先程の女性は、気まずそうに目を逸らし足早にその場を離れていきました。

きっと、あの女性にも悪気はなかったのでしょう。だからこそ、自分がその場で判断を誤らなかったことを、私はこれからも大切にしていきたいのです。

【体験者:20代・女性主婦、回答時期:2025年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Yumeko.N
元大学職員のコラムニスト。専業主婦として家事と子育てに奮闘。その傍ら、ママ友や同僚からの聞き取り・紹介を中心にインタビューを行う。特に子育てに関する記事、教育機関での経験を通じた子供の成長に関わる親子・家庭環境のテーマを得意とし、同ジャンルのフィールドワークを通じて記事を執筆。

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