休日の混雑したフードコート。家族で昼食中だった知人・知佳さん(仮名)の前に、突然現れた“とんでもない母親”。ピリついた空気の中、場を穏やかに整えたのは、思いがけない人物でした。これは、知佳さんが体験した心あたたまる実話です。

誰が見ても“使用中”のテーブル。しかも全員が食べ終わっておらず、そろって食事をしているのです。それでも母親は退く気配もなく、手を振りながら「こっち、席空いたよ〜!」と離れた場所にいる家族を呼び寄せていました。

知佳さんは、それ以上何も言えませんでした。下手に言い返せば、余計にこじれてしまいそうだったからです。

周囲の視線が一気に集まりました。誰もが黙ったまま、成り行きを見守っている様子でした。居心地の悪い沈黙だけが、その場に広がっていました。

そのとき、スッとやさしい笑顔の男性が現れました。

やさしい笑顔で

その方は、フードコートの清掃スタッフでした。制服姿でゆっくりと近づき、やさしい笑顔で、そっと声をかけてくれました。

「ちょうど、あちらの席が空きましたよ。今、拭いてご案内しますね」

その一言に、張りつめていた空気がすっと和らぎました。
母親は何か言いたげな顔をしながらも、しぶしぶと子どもの手を引いて離れていきました。

まわりの視線がようやく逸れ、フードコートに少しずつ日常のざわめきが戻ってきました。
知佳さんは、なんとも言えない気持ちで夫と顔を見合わせ、小さく笑いました。

「びっくりしたね。こんなこと、初めて。みんな席取りに必死なんだね」

夫は苦笑しながら、肩をすくめて言いました。

「でも、助かったよ。あんなふうに間に入ってくれるスタッフさん、なかなかいないよね」

テーブルに残った食べかけの料理を見つめながら、知佳さんはひと呼吸置き、やっと口を開きました。

「ほんとに……じゃあ、今度こそトイレ行ってくるね」

そう言って、足早にその場を離れたそうです。

心が洗われた“大人のふるまい”

その後、家族全員で「世の中にはいろんな人がいるね」と苦笑いを交わしました。けれど、知佳さんの心には、ある思いがじんわりと広がっていました。

あの母親も、もしかしたら必死だったのかもしれない。混雑の中、子どもの「お腹すいた」に応えようと、焦っていたのかもしれない 、そう思うと少しだけ胸が痛みました。

だけどやっぱり、大人のふるまいというのは、あの清掃スタッフのような人のことを言うのでしょう。

誰の味方をするでもなく、誰かを責めるでもなく、静かに場を整えてくれる人。その穏やかな対応に、知佳さんは心を洗われるような思いがしたそうです。

たった数分の出来事でしたが、家族にとって忘れられない一日になりました。 

【体験者:30代・会社員女性、回答時期:2025年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。

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