恋愛に縁のなかった息子が、ある日突然「婚約者を紹介したい」と言い出した。現れたのは、派手で個性的な装いの若い女性。母である筆者の知人・芳子さん(仮名)は、「息子には合わない」と内心距離を置いた。だが後日、偶然目にした彼女の“ある姿”に心を動かされ、印象が静かに変わっていく——これは、芳子さんが実際に体験した驚きと価値観の変化を描いた実話です。
画像: 息子の婚約者の"ド派手な見た目"に絶句。「うちの子には合わない」でも、偶然見た『本当の姿』に感動

あの子が婚約者? 思わず固まった初対面

真面目で恋愛に無縁だった息子が、ある日突然「婚活を始めた」と言い出したとき、芳子さんは耳を疑いました。
おしゃれにも無頓着で、どちらかといえば奥手なタイプ。それなのに「自分を変えたい」と張り切る姿に、芳子さんは心の中でそっとエールを送っていました。

そして数か月後、「紹介したい人がいる」と連れてきた婚約者を見た瞬間、芳子さんは息をのみました。
ピンク色の髪に、両耳にはいくつもの大ぶりなピアス。さらに口元にもひとつ。

まるでパンクロックのステージからそのまま現れたような風貌で、思考がついていきませんでした。
「うちの子には、合わないかもしれない」思わず心の中で、そうつぶやいてしまったのです。

いったい、どこで知り合ったの?

派手な見た目の彼女を前に、芳子さんの胸にはじわじわと不安が湧いてきました。
「本当に、仕事しているのかしら」
そして次の瞬間、ふとよぎったのです。
「どこで、こんな子と出会ったの?」

息子は「職場で出会った」と話していましたが、にわかには信じがたくて。
息子の職場は病院なので、清潔感や信頼感が大切なはず。
あんなに目立つ外見で、本当に息子の職場で?

あとから息子に聞いたところによると、彼の勤める病院では最近「利用者さんやその家族に不快感を与えない範囲であれば、髪色や身だしなみは自由」とする方針が取られているのだそうです。
また、ピアスなどのアクセサリーも「怪我をさせないことを条件に着用OK」とされていて、若いスタッフを中心に少しずつ浸透してきているという話でした。

最近は、たしかに自己主張ができる職場も増えてきたと、新聞やテレビで見かけることもあります。髪色やピアスも、個性のひとつ。そんな時代なのかもしれません。

それでも、彼女が病院で働いている姿がどうしても想像できなかったのです。
芳子さんの頭の中では、疑問ばかりがぐるぐると回っていました。

もちろん、彼女には何も言えませんでした。
ただ笑顔をつくって、曖昧にうなずくばかり。けれど心の中では、
「息子は浮かれて見誤っているのでは」という思いが、膨らんでいったのです。

どうしても、自分の中ではまだ“非常識”に近いものとして残っている。頭では理解しようとしても、心がついてこない。そんな感覚でした。
「私の感覚が古いだけなのかも。でも、本当に大丈夫なの?」
確信のないまま、モヤモヤだけが心に残りました。

偶然の再会

数日後、芳子さんは通院先の総合病院で、思いがけない場面に出くわしました。
ロビーで目に入ったピンクの髪。制服姿で車いすの高齢者に寄り添う女性——それが、あの婚約者だったのです。

思わず立ち止まり、少し離れた場所から様子を見つめてしまいました。

彼女は、しっかり相手の顔を見て話しかけていました。
「もうすぐ検査、呼ばれますって。一緒にいますから、大丈夫ですからね!」
そう言って大きくうなずきながら、聞き取りやすい声でゆっくり話す。
患者の表情に気を配り、落ち着いた笑顔でそばに寄り添っていました。

その姿を見て、芳子さんは目を離すことができませんでした。
あんなに派手に見えたのに、現場ではまったく浮いていない。
むしろ自然に溶け込んでいて、信頼されていることが伝わってきました。

その日の夜、リビングでくつろぐ息子に、昼間の出来事を伝えました。
「今日ね、病院で彼女ちゃん見かけたのよ。立派にお仕事されてて、お母さん、びっくりしちゃったの」

続けて、芳子さんはさらに母としての正直な気持ちを打ち明けました。
「実はね、母さん正直な話するとね、ちょっと個性が強そうに見えるから、あの子で大丈夫かしらって思ってしまってたのよ。ごめんね!」

すると息子は笑顔を浮かべながら言いました。
「ほんとに! 母さんも俺と一緒だよ! でもね、彼女は頑張り屋なんだよね。俺、そこがすごく好きでさ……」

“見た目”で測る愚かさ。母としての気づき

それからしばらく、芳子さんは自分の中にあった“ものさし”について考えるようになったと言います。
見た目が“派手だから不真面目、個性的だから心配”そんな先入観が、自分にもまだ残っていたのだと。

彼女は、まっすぐ人と向き合い、自分らしく、堂々と働いていた。
「人は見た目じゃない」なんて、わかっていたつもりだったけれど、心の底からそう実感したのは、あの日が初めてだったのかもしれません。

「私も、もっとアップデートしなきゃね」
小さく笑いながらそう話した芳子さんの表情は、どこか誇らしげでした。

【体験者:60代・主婦、回答時期:2024年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。

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