筆者の話です。幼い頃、大好きだったピアノ教室をやめることに。ある春の日を境に、私は鍵盤から遠ざかりました──

届いた電子ピアノに触れられず

それ以来、私はピアノに触れなくなりました。
教本を入れていたピアノ教室セットも部屋の隅に押しやられたまま、再び開くこともありません。

しかし、数年が経ったある日、家に電子ピアノが届きました。
母がサプライズで買ってくれたもので、うれしくなり、少しだけ期待して教本を手に取り鍵盤に向かいました。

けれど、音符はもう読めず、指も思うように動いてくれません。
そのまま触る気になれず……。
弾き手を失った電子ピアノは、やがて物置にしまわれることになりました。

母が教えてくれた本当の理由

それからまた数年後、引っ越しのため物置のものを処分していた際に見つけた電子ピアノ。
懐かしく触る私を見て、母がぽつりとこぼしました。

「月謝が出せなかったの。だからやめさせるしかなかった。電子ピアノならと思って買ったけど、もう遅かったね……」

あのときは、ただ悲しいだけでした。
けれど今ならわかります。

母は不器用なやり方だったけれど、私の「ピアノが好きだった気持ち」を守ろうとしてくれていたのだと。
大人になった今、ようやくそう思えるようになりました。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。

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