これは、私の友人・A子から聞いた話です。時に言葉よりも雄弁に心を動かすものがある――そんな大切なことに気づかされた出来事でした。
突然の「辞めたいんです」
A子がチームリーダーを務める小さな制作会社でのことです。
入社4ヶ月目の新入社員・Bさんが、ある日の終業後にA子のデスクへやってきました。
「あの、少しいいですか」
声が震えていました。場所を移すと、堰を切ったように泣き出したBさん。
「もう……辞めたいんです」
責任感の強いA子は、リーダーとして「彼女を救わなければ」と激しく焦りました。
「頑張れ」は追い詰めてしまうかもしれない。「わかるよ」は安っぽく聞こえるかも。
気の利いた一言が、どうしても出てきませんでした。
静かに立ち上がったCさん
そのとき、斜め後ろのデスクでずっと黙って作業していたCさんが、おもむろに立ち上がりました。50代の男性で、職人気質で無口、若手からは少し距離を置かれがちな存在です。
CさんはBさんの方を向いて、ぽつりと言いました。
「ちょっとコンビニ行くんだけど……行かない?」
Bさんは驚いた顔のまま、こくりとうなずきました。
二人が並んで部屋を出て行く姿を、A子はただ見送るしかありませんでした。