これは知人のA子さんに聞いたお話です。娘が所属する吹奏楽部に現れたのは、自称・経験者の困ったお母さん。部の方針に口を出し、ついには「娘を目立たせろ」と無理難題を突きつけますが、顧問の先生が提案した“ある解決策”によって、事態は思わぬ方向へ動き出します。

オーディション当日

そして迎えたオーディション当日。B子ちゃんの番が来ましたが、彼女は楽器を構えたまま立ち尽くしてしまいました。静まり返った音楽室で、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちます。

「もう無理……。お母さんのプレッシャーが辛いの。私は楽しく吹きたいだけなのに」と、震える声で告白したのです。その場にいた全員が、彼女の悲痛な叫びに言葉を失いました。

観覧席にいたB子ちゃんママは、凍りついたように固まってしまいました。良かれと思ってかけていた応援の言葉が、わが子をここまで追い詰めていたなんて。娘の涙を前にして、ようやく自分のエゴがどれほど娘の心の調和を乱していたかに気づかされたのでした。

彼女は娘の元へ駆け寄ることもできず、ただ震える肩を見つめることしかできませんでした。A子さんもその場にいましたが、B子ちゃんの切実な叫びには、胸が締め付けられる思いだったと言います。

エゴを捨てた母親のその後。やっと見つけた「見守る」という正解

その日を境に、B子ちゃんママは別人のように静かになりました。まさに憑き物が落ちたように、練習に口を出すことも、先生に意見することもなくなったのです。今では他の保護者と一緒に、少し離れた場所から優しく娘を見守る、穏やかな一保護者に戻りました。あれほど強引だった彼女が、今では「お疲れ様」と控えめに挨拶をしてくれるようになり、周囲もようやく胸をなで下ろしています。

B子ちゃんも、プレッシャーから解放されたおかげか、以前にも増して伸び伸びと演奏するようになり、部全体に平和で温かい空気が戻りました。

親の過度な期待や「良かれと思って」の先回り。それは時に、子どもの楽しむ心を潰す刃にもなり得ます。A子さんは「子どもたちが主役の場所では、大人はあくまでサポーターでいなきゃね」と、自分自身にも言い聞かせるように笑っていました。まずは楽しむ心が大切なのだと、吹奏楽部の子どもたちを通して学んだそうです。

【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2026年2月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:日向みなみ
出産を機に、子どもとの時間を最優先できる働き方を模索し、未経験からWebライターの世界へ。ライター歴10年の現在は、オンライン秘書としても活動の幅を広げている。自身の経験を元に、子育てや仕事に奮闘する中で生まれる日々の「あるある」や「モヤモヤ」をテーマに、読者のみなさんと一緒に笑って乗り越えるよう、前向きな気持ちになれるコラムを執筆中。