自立への希望
長男が事業所に通い始めた頃、私には小さな希望がありました。
重度の知的障害を抱えながらも、地下鉄を使って自力で通所できるまでに成長した長男の姿は、私にとって積み重ねてきた日々へのひとつの答えのように見えたのです。
私は長男の通所に一ヶ月間付き添い、道順や手順を覚えさせて確認を重ねていきました。そうした上での自立への第一歩でした。
最初は順調に進んでいました。遅刻もせず、17時までには自宅に帰り着く日々が続きました。しかし、ある時期から長男の行動に異変が現れ始めました。
Airtagとスマホの位置情報を確認すると、いつもと全く違う場所に彼のいる地点が映し出されていました。
またある時は一本先の駅から地下鉄に乗っていたり、逆方向行きのバスに乗り込んでいたりしています。
事業所からは遅刻の確認連絡が入り、支援員が探しに行くと駅のホームにじっと留まっていたという報告もありました。
障害の特性から来るものか、混乱した長男は立ち入り禁止区域へ足を踏み入れてしまったり、お店の物を無自覚に持ち出してしまったりといったトラブルも重なりました。
長男の自立への希望は、突然重い現実へと反転したのです。
分担のはずが
夫と話し合いをして、帰宅時は事業所まで車で迎えに行くことにしました。最初のうちは、夫は率先して動いてくれましたが、その意欲はすぐに萎んでいきました。
「月曜は新規の顧客が入ったから行けない」
翌週には「水曜も打ち合わせがある」
その次は「金曜も難しい」
気がつけば夫が担当できる曜日が、週の中からどんどん削られていきました。フリーランスの在宅勤務という働き方は忙しさが変動すること。それはわかっていました。
しかし、会社員を辞めてから一時収まっていた夫の口から繰り返し出てくるようになった言葉が、再び、口にされるようになっていました。
「お前の方が稼いでいないんだから」
その言葉は私の我慢を少しずつ削り取っていきます。
火曜日も木曜日も、夫が担当できるはずの日でさえ、何かにつけてその言葉と共に私へと押し付けられました。私も仕事を持ち、家事や長男だけでなく次男の育児もあります。
それでも夫から「稼ぎが少ない方が動くべきだ」と理屈を言われて、すべてが私の肩に乗せられていきます。