筆者のエピソードです。世界陸上を国立競技場で生観戦した夜。小1の息子は、ただのスポーツ観戦以上のものを感じ取っていたようでした。”生で感じる”という素晴らしさ。あの日から、彼の中で“世界”と“本気”の意味が少しずつ変わっていったようです。

世界陸上! 初めての国立競技場

世界陸上を家族で観に行ったのは、まだ夏の暑さが残る9月のことでした。テレビで見ていたあの場所、あの選手たちが目の前にいる——。スタジアムに響く歓声と拍手、選手の名前を呼ぶ多国籍の人々の声。私自身もワクワクしていたけれど、隣に座る小1の息子は、目をまん丸にして食い入るようにトラックを見つめていました。

小1男子の目に映った“世界”

「なんか、みんな速いね。みんながんばってるね」
ぽつりと呟いたその一言に、胸がじんとしました。肌の色も、国の名前も、背の高さも違うのに、全員が同じスタートラインに立っている。誰もが全力でゴールをめざす姿を、息子は確かに“感じ取って”いたのだと思います。あのときの国立競技場は、ただの陸上の舞台ではなく、“世界”そのものが広がっていました。

部屋の片隅の世界地図

帰宅したあと、息子は部屋の片隅に貼ってある世界地図の前に座り込みました。「この国の人が速かったよね」「この国旗、持ってたよね」と、指でなぞりながら何度も見比べていました。今まで飾りのように貼られていた地図が、その日からはまるで“図鑑”のように見えたのでしょう。

走り方の研究!? “自分も”の気持ち

それから数日後、ふと見ると、息子が鏡の前で走り方の研究をしていました。
「こうやって足をすごいあげてたよね?」
その後も連日で見続け、選手たちのフォームをまねしながら、真剣な顔をしていました。小さな足がトタトタと動くたびに、あの日の拍手と歓声がふとよみがえります。本人なりに、“本気でやる”ということを、自分の中で探しているようでした。

小さな心に芽生えた“本気”の種

世界陸上を観に行ったのは、「なかなかこんな機会もないしね~」という気持ち程度でした。でも、息子の中ではそれが確かに何かを変えました。世界にはいろんな人がいて、どの国の人も努力して、全力で走っている——そんな当たり前のことを、幼いながらもちゃんと見ていたのでしょう。

あの日、国立競技場の空気に包まれながら芽生えた“本気の種”。それは、これからの長い人生で、きっとどこかのスタートラインに立つ彼を支えてくれる気がします。

【体験者:30代・筆者、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

FTNコラムニスト:K.Matsubara
15年間、保育士として200組以上の親子と向き合ってきた経験を持つ専業主婦ライター。日々の連絡帳やお便りを通して培った、情景が浮かぶ文章を得意としている。
子育てや保育の現場で見てきたリアルな声、そして自身や友人知人の経験をもとに、同じように悩んだり感じたりする人々に寄り添う記事を執筆中。ママ友との関係や日々の暮らしに関するテーマも得意。読者に共感と小さなヒントを届けられるよう、心を込めて言葉を紡いでいる。