喜びから一転
妊娠が分かった時、夫は私以上に大喜びでした。
子どもの名前を考えたり、ベビーカーやチャイルドシートについて熱心に調べたり……。
「気が早過ぎるよ」と私が苦笑するほど、夫は家族が増えるのを心待ちにしていました。
しかし、その幸せは長くは続きませんでした。
わずか数週間で、私は流産してしまったのです。
病院でそれを告げられた帰り道は、現実を受け入れられず、ただただ呆然としていました。
励ましの言葉と夫の沈黙
その後、親族や友人たちが、私のことを心配し、たくさんの励ましの言葉をかけてくれました。
「まだ若いんだし、大丈夫!」
「きっと次があるよ!」
その優しさはとてもありがたかったものの、何か言われるたびに胸は締めつけられました。
まだ現実を受け止められていないのに、前に進むことを強要されているような気すらしてしまったのです。
そんな中、夫だけは何も言いませんでした。
我ながら自分勝手だと思いつつも、周囲が声をかけてくれる中、夫の沈黙を冷たく感じたこともありました。
言葉に代わる夫の行動
けれど、夫は静かに、ずっと私のそばにい続けてくれました。
温かい食事を用意し、泣き疲れて眠る私に毛布をかけ、朝は早く起きて洗濯物を干してくれていました。
無理に笑わせるようなこともせず、無理に元気づけようともしない。
ただ、私が生きていくための小さなことを、淡々と、そして確実に積み重ねてくれていたのです。
日を追うごとに、その行動の裏にある夫の気持ちが、私には少しずつ分かってきました。
夫は「元気を出して」と言う代わりに、黙々と私を支える手を動かしてくれていたのだ、と。
不器用な愛情がくれたもの
確かな優しさが、そこにはありました。
夫は、言葉ではなく行動で、私をそっと包んでくれていたのです。
夫との静かな日々が、少しずつですが私を立ち直らせてくれました。
その後、私たちは幸運にも2人の子どもに恵まれ、今は慌しい日々を送っています。
夫婦喧嘩をする時もありますが、そのたびにあの頃の夫の不器用な優しさを思い出します。
悲しい経験を通して、私は夫の深く、そして変わらない愛情を知ることができました。
【体験者:40代・女性主婦、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。