まさかの出来事
夫が生きている間、私は遺産の話を子どもたちとは一切してきませんでした。
「縁起でもない」という気持ちが強く、わざわざ触れる必要はないと考えていたのです。
娘と息子は二人とも成人していて、分別もあり、何より姉弟仲がとても良かったので、万が一のことがあっても、きっと穏やかに譲り合ってくれるだろうと信じていました。
将来の心配より、今の平和を大切にしたい。そんなふうに考えて、まさかその「平和」が揺らぐ日が来るなんて、夢にも思っていませんでした。
突然の別れと動き出す現実
しかし昨年、全く予想していなかったタイミングで夫が他界しました。そして、その瞬間から状況は一変。
最初は、どこに何があるのか、どのように分けるべきか、といった軽い確認のつもりだったのです。
ところが、娘は形見の品に強い思い入れを主張し始め、息子は現金や投資の分配について、具体的な金額を求めてきました。
思いがけない衝突
「その分け方だと私が損してる! 納得できない!」普段はおとなしい娘が声を荒げたとき、私は耳を疑いました。
息子も、「でも俺は長男だろ。ちょっとくらい多めにもらっても……!」と反論。
これまで一度も聞いたことのない、感情的な言葉の応酬が続きます。
互いの価値観の違いと感情のもつれが、想像もしなかった形で表面化し、平和だった家族の風景が、あっという間に壊れていくような感覚に襲われました。
話す勇気の大切さ
私は必死に冷静さを保ち、間に入って説得を試みたり、具体的な計算を示して折り合いをつけたりしましたが、心の中では大きなショックを受けていました。
夫の会社の顧問弁護士にも相談し、なんとか相続は済んだものの、後味は悪いまま……。
それ以来、娘と息子は気まずい雰囲気が続いています。
お金や財産の話は、なんとなく冷たく感じてしまいがちですが、家族の絆を守るためにも、早めに話し合い、共有する勇気を持つことの大切さを痛感しています。
未来のための準備を怠らないことこそ、何よりも重要だと心から思いました。
【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。