介護に家事全般——気づけば誰かのために生きる毎日。
「このままずっと、誰かのために生きる人生を送るの?」
義祖母の死後、限界の糸が切れたB子さんは、書き置きを残して家出を決行し――?
介護と家事に追われる生活
私は40代の主婦です。
この家に嫁にきてからずっと、義理の家族と同居しており、高校生と中学生の息子もいるので、毎日の料理や洗濯も、量が多く一苦労。
つい最近まで、義祖母の介護もしていましたので、私の生活は「家のこと」一色でした。
おばあちゃんは、義母にとっては義理の母であり、義父にとっては実の母なのに、どちらも介護には積極的ではありませんでした。
夫も「仕事が忙しいから」と、家のことは私に任せきりです。
それでも私は、おばあちゃんのことが好きだったので、できる限りのことをしてきました。
SNSなどで、同世代の友人が優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる様子などを見ては、羨ましく思ったこともあります。
でも、愚痴を言ったって仕方ありません。
とにかく毎日の家事や介護に、懸命に励む日々を送っていました。
このままずっと、誰かの世話ばかりする人生……?
介護生活は、5年続きました。
義祖母が亡くなった日の夜、私は深く息を吐きました。
「ようやく、終わったんだな……」
嫁に入ったばかりの頃から、何かと気をかけてくれていたおばあちゃん。
介護生活の中でも、「ありがとう」「お世話かけてごめんね」と何度も言ってくれていました。
寂しさに胸が詰まりそうでしたが、一方で、肩の荷が下りた気持ちもありました。
「これからは、私も少しは羽を伸ばして――ん?」
今後のことを考えた時、ふと恐ろしい考えが頭をよぎりました。
「次は、義父母の介護が始まるの? それが終わったって、その次は夫?」
この先一生、誰かの世話ばかりをして生きなければならないのか。
「嫁」として、「母」として、私の人生は他人のためにだけあるのだろうか。
そう思った瞬間、どうしようもなく苦しくなりました。
――冗談じゃないわ!
自分だけの時間
気づいた時には、「しばらくお休みをください」と書き置きを残し、家を飛び出していました。
向かった先は、結婚前に夫と訪れた温泉地。
あの頃から、この人の家族ごと、一生大切にしていこう、と心から思っていました。
けれど、長年積み重なった疲れが、私を追い詰めていたのだと思います。
温泉に浸かり、誰にも気を遣わず、ただ眠る。
そんな自分だけの時間が癒しとなり、心の奥に染み渡りました。
「このまま帰らず、ひとりで生きていけたらどんなに楽だろう」
そんな考えが頭をかすめました。
でも――。
やっぱり、私は母であり、妻であり、あの家の嫁。
どうあがいたって、家族が大好きなのです。
やっぱり、家に帰ることに
3日後、私は家に戻りました。
怒られるのを覚悟していましたが、家族は「おかえり」と喜んで出迎えてくれました。
その晩、夫に晩酌に誘われました。
「本当は、B子に全部押しつけてきたって、気づいてた。なのに、見て見ぬふりをしていた。ごめん。後悔している」
すまなそうに頭を下げる夫を見て、胸がじんとしました。
「これから先、もし親の介護が必要になっても、今までみたいにはしない。施設やサービスにも頼るし、両親の貯金もあるから、金銭的な心配もいらないよ」
夫の言葉は意外でした。
謝罪の念はあっても、てっきり、悪かったという言葉や、その場しのぎのプレゼントで終わらせられると思っていました。
今回のことで、夫なりに、これまでのことと、これからのことをきちんと考えてくれたのでしょう。
そのことが、私には嬉しかったのです。
「私」の人生
来月、夫とまた、あの温泉地を訪れることになりました。
今度は家出じゃなく、夫婦ふたりの小旅行です。
これから、「嫁」でも「母」でもない、「私」の人生を、少しずつ探っていけたらいいな。
そのために、なにか趣味でも見つけてみようと思っています。
【体験者:40代女性・専業主婦、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:大城サラ
イベント・集客・運営コンサル、ライター事業のフリーランスとして活動後、事業会社を設立。現在も会社経営者兼ライターとして活動中。事業を起こし、経営に取り組む経験から女性リーダーの悩みに寄り添ったり、恋愛や結婚に悩める多くの女性の相談に乗ってきたため、読者が前向きになれるような記事を届けることがモットー。