車いすが必要な小学生
美香さんの息子・ケンくんは、3歳の頃に難病を患い長期入院を経験。
普段は歩けるものの、階段や長距離移動では車いすを使うことが多い日々です。
小学生の息子が車いすを使うと、どうしても人の視線が集まります。
母親の美香さんは慣れたふりをしていても、胸の奥がざわつく瞬間があるのです。
ある日、校外学習があり、美香さんが付き添うことになりました。
博物館や地域を巡る一日で、長い距離を移動する予定。
いつものように「ジロジロ見られて、何か言われないかな」と内心ドキドキしている美香さんでした。
思わず出た“素直すぎる”一言
博物館や地域を巡る長い道のり。
歩き続けて疲れたクラスメイトが、ふと口にしました。
「いいよな、座れて。ずるい」
その瞬間、美香さんの胸がチクリと痛みました。 大人ならすぐに叱る場面。
周りの子どもたちも一瞬静まり返ります。 先生も「あっ」という表情を浮かべました。
「ケンはどうするのか……」美香さんは息をのみ、見守っていました。
まさかのドヤ顔返し
ケンくんの反応は予想外でした。 怒るどころか、ニヤッと笑ったのです。
ケンくんは得意げな顔で言いました。
「うらやましいでしょ? オレのひざに乗っていいよ!」
完全にドヤ顔です。 次の瞬間、先生も吹き出し、友だちも肩を揺らして笑いました。
重たい空気が嘘みたいに軽くなる。 その一言で、ドッと笑い声が広がったのです。
美香さんは驚きと同時に、息子の強さに胸が熱くなりました。
困難を背負っても、それを笑いに変える息子の姿が、そこにありました。
子どもが教えてくれたこと
「特別扱い」と受けとめがちな瞬間も、ユーモアで跳ね返す。
困難を強さに変える息子の姿に、周囲がハッとさせられました。
笑わせる力、空気を変える力。
息子の一言に、周りの大人も教えられた気がする出来事でした。
あの時のクラスメイトとケンくんは、その後もずっと仲良しです。 車いすという“違い”が、むしろ友情のきっかけになりました。
美香さんは、もっと肩の力を抜いて生きていいんだと、今ではそう思えるそうです。
【体験者:30代・主婦、回答時期:2023年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。