思わぬ救いの手が
途方に暮れていると、先ほど私が心の中で「暇そう」と見下していたママたちの1人が、心配そうに近づいてきました。
「あら、大変。パンクしちゃったの?」
その声に、他のママたちも集まってきます。
「大丈夫?」「お子さん、きっと眠いのねぇ」
優しい言葉をかけられ、私は少し泣きそうになりました。
「この辺に自転車屋さん、ありますか?」絞り出すように尋ねると、ママの1人がにこやかにこう答えてくれました。
「自転車屋さんはちょっと遠いけど、そこの100円ショップにパンク修理キットが売ってるのよ! 応急処置ならすぐできるわ」
目から鱗でした。さらに、別のママが続けます。
「もしよかったら手伝ってあげるから、キットを買ったら戻っておいで」
その言葉に、胸の奥から温かいものがこみ上げてきました。
彼女たちは困っている私に、こんなにも親身になってくれている。
勝手に見下していた自分が心底恥ずかしくなりました。
あたたかい優しさに感謝
私が言われた通り100円ショップへ行き、戻ってくると、1人のママが、「ママが直してるあいだ、一緒に遊ぼうか?」と、泣き止まない息子をあやしながら、公園の遊具の方へ連れて行ってくれました。
その間に、手際よくパンク修理を手伝ってくれるママも。
「この辺りの知り合いに必要そうな物は借りてきたから!」
「ここを押さえてて」
「もうすぐ終わるからね」と、みんなで声をかけ、助けてくれたおかげで、自転車はまた走れるようになりました。
何度も頭を下げてお礼を言い、家路につく私たちに、彼女たちは笑顔で手を振ってくれました。
「応急処置だから、ちゃんと自転車屋で見てもらってね」「またねー!」
「あのママたちは暇なのではなく、心に余裕があるんだ……」と、自分の勝手な思い込みを恥じつつ、あたたかな手助けに感謝した出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。