知らない親子
Sさん一家は郊外に広い庭のある一軒家を購入したばかり。
そこは新しい家が立ち並ぶ住宅街で、Sさん一家と同世代の家族が多いのか、外でバーベキューをしたり大きなプールを出している家があったりと、休みの日は庭で過ごす人が多い街です。
実は庭でバーベキューをするのが夢だったSさんの旦那さんは、ひと目でその街を気に入って購入に至ったのでした。
そんなある日、ちょうど義両親や義姉夫婦とその子どもたちが引っ越し祝いに来てくれたため、Sさん一家は念願の庭でのバーベキューをすることになりました。
「飲み物これぐらいでいいかな……」
「もうすぐ火をおこせるよ」
などと全員で忙しく準備をしていると、庭に面している道路の方から誰かが話しかけてきました。
「バーベキューですか? いいですね!」
声のした方を見ると、ご近所では見かけたことのない、小さな子を連れた女性でした。
バーベキューに参加したがる親子
「えっと……すみません、引っ越してきたばかりで。このあたりにお住まいですか?」
Sさんが尋ねると、女性はニコニコして答えました。
「私、今ママ友の家に遊びに行った帰りなんです。バーベキューいいなあ、私たちも参加させてください!」
「え!?」
突然のお願いにSさんはビックリ。しかしその女性はSさんの様子を気にせず続けました。
「ほら、そろそろ晩御飯の時間だし子どももお肉食べたいって言ってるんで。いいですよね?」
しかし子どもが帰りたそうな様子だったことや、さすがに初対面の人をいきなり家族だけのバーベキューに参加させるのはどうかと思い、Sさんは「今日は家族の集まりなので」と言ってお断りしました。
その日はすんなり帰ってくれたため、Sさんはひと安心してバーベキューを楽しみました。
しかしその親子はその後、週末の度に庭先にやってきては「いつバーベキュー呼んでくれるんですか」などと催促してくるようになったのです。
「いえ、今週はしないので……」
Sさんの家に訪ねてくる以外はまったくご近所で顔も合わせませんし、よく知らない人なのでSさんは断り続けていました。
するとその親子がSさんの家の庭先に来ているのを見たご近所さんが、親子が帰った後に教えてくれました。
「あの人、幼稚園のママ友の間でも強引に家に上がりたがるからみんな困ってる人なのよ。食事代を浮かしたいみたいで1回来たら毎日のように来ちゃうからみんな断ってるの」
それを聞いたSさんはとりあえずバーベキューはしばらく開催しないことに。断り続けているうちに親子も来なくなり、Sさんはやっと安心してバーベキューを楽しめるようになったそうです。
今回の出来事を通して、Sさんはご近所付き合いの難しさや、知らない人との距離感を保つことの大切さを改めて感じたのでした。
【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。