その言葉の意味が、大人になった今、思いがけない形で心に響き直します──。
今回は筆者の知人から聞いた、親の愛に気づくエピソードをご紹介します。
「お金がない」が口癖
小学生の頃、欲しいゲームソフトやキャラクターグッズをねだると、母からは決まってこう言われていました。
「我慢してね」
「うちにはお金がないから」
その言葉を聞くたびに、子ども心に言いようのない寂しさを感じた私。
友達が新しいおもちゃに夢中になっている姿を見ては、自分の家だけが何か違うような気がして、当時は漠然とした戸惑いと、ほんの少しの恥ずかしさを感じていたのです。
外食はもちろん、家族でどこか旅行に行くことさえ、ほとんどありませんでした。
母のその言葉は、子ども心に「うちは我慢が当たり前」という感覚を植え付けるには十分でした。
大人になって分かったこと
でも、月日が流れて大人になったあるとき、母が長年記していた家計簿をふと目にする機会がありました。
何気なく見た家計簿を見てびっくり!
そこには、ギリギリの生活をやりくりしながら、食費や学費をなんとか確保しようと必死な数字が並んでいたのです。
私には言わなかったようですが、当時父の収入が不安定で、毎月が綱渡りだったことも初めて知りました。
母の気持ち
「うちにはお金がない」
という言葉は、決して私を突き放すためのものではありませんでした。
それは、現実を必死に支えようとする母の、精一杯の言葉だったのです。
おもちゃやゲームを欲しがる私に、毎回優しく言う余裕も、説明する時間もなかったのかもしれません。
それでも、私の学費は大学に通う分まで、きちんと用意されていました。
思い返せば、ピアノとお習字の習い事も辞めずに続けられていたのです。
ありがとう
子どもを育てる今、ようやく母の気持ちが分かってきました。
あの言葉の裏には、心配と責任、そして深い愛情があったのです。
あの頃は悲しかったけれど、母に対して今は『ありがとう』と感謝の気持ちでいっぱいです。
母の言葉が、私のなかの大切な財産になっています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にltnでヒアリングと執筆を行う。