満員バスでの違和感
その朝、私はいつも通りの通勤バスに乗り込んで、空いていた端の席に腰を下ろしました。
車内はすでに人でいっぱいで、吊り革を握る人たちの間を縫うように座っていたのですが、隣に座った中年の男性が、なぜか思いきり足を広げて座っているのです。
私はとても窮屈で、太ももが押しつぶされるような感覚でした。
でもその男性はまったく気にする様子もなく、スマホをいじりながら笑っていました。
見て見ぬふりの車内
周囲の人たちも、その異様な座り方に気づいているようでしたが、誰も何も言いませんでした。私も我慢しようと努めましたが、揺れるたびに肘がぶつかり、身体は半分通路にはみ出したような状態に。
「これ、いつまで我慢すればいいの?」
そう思った瞬間、我慢の限界を感じました。もしかしたら本人に悪気はなかったのかもしれませんが、このままでは私だけでなく、周囲の乗客も快適に過ごせないと思ったのです。
もう限界
私は一度大きく深呼吸してから、なるべく静かな声で言いました。
「すみません、ここ、あなただけの座席じゃないですよね?」
男性はポカンとした顔でこちらを見ましたが、黙ったまま、そのまま足をすっと引っ込めました。
車内は一瞬しんとしましたが、隣の女性が小さく頷いてくれたのが見えて、私はホッとしました。
その後
それ以降、バスは何事もなかったかのように静かに進みました。
私は自分のスペースを取り戻し、ようやく真っすぐ座ることができました。
あのとき、もし黙ったままだったら、私はきっと一日中モヤモヤしていたと思います。
ほんの少しの勇気を持って一歩踏み出すことで、場の空気は変わり、私自身の心も、まるで重い荷物を下ろしたように軽くなりました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。