距離を置いていたある日、思いがけない形で父の【本当の想い】に触れることに──。
今回はA子から聞いた、父が娘を想う静かな愛に関するエピソードをご紹介します。
無口で関わりにくい父
「子どもには迷惑かけたくない」
「俺のことは気にするな」
この2つのセリフは、私が幼い頃からの父の口癖でした。
感情をめったに表に出そうとはせず、誰に対してもぶっきらぼうで無口だった父。
私が何か話しかけても反応は頷く程度で、父から話題を振ってきてくれることはほとんどありませんでした。
母はそんな父をフォローしていたものの、ずっと父からの愛情をいまいち感じられずに育った私。
大人になり家を出て数年後、持病が悪化した母が亡くなると、父しかいない実家にはより帰らなくなっていました。
見つけたもの
そんななか父が急な病で倒れ、介護が必要に。
正直、これまでの父との関係を思うと、介護の始まりに戸惑いもありました。
それでも、一人娘ということもあり、父の介護ができるのは私だけ。
複雑な気持ちを抱えながら、まだ入院している父に代わって、実家の掃除から始めることにしました。
その一環で、あまり入ったことのない父の部屋で荷物を整理していたとき、通帳と古い日記をいくつも見つけたのです。
父の想い
通帳には、私の名前で少しずつ積み立てられたお金が記載されていました。
どうやら母と一緒に貯めて、私にいつか渡してくれようとしていたようですが、タイミングを逃してそのままになっていた様子。
さらに日記には『初めてA子が歩く姿には感動した』『運動会のリレーで1位をとって喜ぶA子が可愛かった』など、私の成長を記録した言葉が並んでいました。
それも、まるで宝物を記すように、嬉しそうな字で。
一番直近の日記の最後には2枚、私と母が笑いあっている古びた写真が挟まれており、思わず涙があふれた私。
ずっと『父からは愛されていない』と思っていたけれど、それは大きな勘違いだったと気づいたのです。
ありがとう
「迷惑かけたくない」
と常日頃から言っていた父の言葉の裏には、深い愛がありました。
父は本当に不器用で、ただ表現の仕方を知らなかっただけ。
ただただ静かに、ずっと私の成長を見守ってくれていたのです。
今、私は父に『ありがとう』と何度も伝えています。
あのとき、父の想いに気づけて本当によかったです。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:一瀬あい
元作家志望の専業ライター。小説を志した際に行った女性への取材と執筆活動に魅せられ、現在は女性の人生訓に繋がる記事執筆を専門にする。特に女同士の友情やトラブル、嫁姑問題に関心があり、そのジャンルを中心にltnでヒアリングと執筆を行う。