静寂を破ったスマホの光
先日、義父の三回忌が、お寺で執り行われました。
久しぶりに親族が顔を合わせ、本堂は厳かな雰囲気に包まれていました。
読経が響く中、私もそっと手を合わせていたのですが……
ふと隣に座る息子の妻、あかりさん(仮名)の手元に違和感を覚えたのです。
彼女はスマートフォンを構え、何かを操作していました。
画面をよく見ると、ひっきりなしにコメントのようなものが流れていくのが見えます。
まさかとは思いましたが、なんとあかりさんはインスタグラムのライブ配信をしていたのです。
まさかの生配信! お寺からインスタライブ
「こんにちは~、今日はちょっと珍しい場所からお届けしてます♡」という小声とともに、堂内のお供えや仏具をアップで紹介している様子。
「#田舎のお寺」「#昭和レトロ」「#義実家の法事」なんてハッシュタグまで!
私は血の気が引くのを感じました。
あかりさんには悪気がないのかもしれません。
でもこれは、さすがに非常識すぎる……そう感じずにはいられませんでした。
沈黙を破った一言
あかりさんの行動に気付いた親族は、呆れているのか理解できないのか、ただ固まっていました。
その重苦しい沈黙を破ったのは、普段はとても物静かな義兄の奥さんでした。
「……あかりさん、ここはそういう場所じゃないのよ」
と、静かだけれどはっきりとした口調で言い放ったのです。
それでも、あかりさんは一瞬きょとんとした後
「えっ、あ、今ライブ中で急には切れないんですよ~。フォロワーさんも見てるし、誤解されちゃうと困るので」
と言っただけで、配信を切ろうとはしません。
すると義兄の奥さんは、さらに静かに、でもはっきりとこう返しました。
「じゃあ、“義父の三回忌の最中に配信して叱られたから切ります”って、ちゃんとフォロワーさんに説明すればいいわ。そうすれば誤解されないんじゃない?」
悪気なきズレが生んだ、底知れぬ恐怖
あかりさんは、ばつの悪そうな表情で「……わかりました」と小さくつぶやき、ようやくスマホをバッグにしまいました。
きっと、彼女に悪気はなかったのでしょう。
ただ、珍しい場所での出来事をフォロワーと共有したかっただけなのだと思います。
でも、その「悪気のなさ」こそが、最も恐ろしい「ズレ」なのだと気づかされ、今後のお付き合いに不安がよぎった出来事でした。
【体験者:60代・女性主婦、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。