小さな違和感から始まった
夫に対して「なんだか変だな」と思い始めたのは、ほんの小さな出来事からでした。
スマホを手放さなくなり、私が話しかけても、いつも上の空。
食事中の会話も減り、リビングには気まずい沈黙が流れます。
「最近、疲れてるの?」と尋ねても、「仕事が忙しいだけ」とぶっきらぼうに返されるだけ……。
裏切りの証拠と、見え透いた夫の涙
やがて疑いは確信に変わり、私は震える手で証拠を集め始めました。
結果は、想像以上に真っ黒。
夫は半年も前から、大学時代の女友達と許されない関係を続けていたのです。
私が問い詰めると、最初はしらを切って逆ギレしていましたが、スマホのメッセージや証拠写真を突きつけられた途端に態度を変え、うなだれながら「ほんの遊びだった」と呟きました。
そして、「帰る場所はお前しかいない」と涙ぐみながら土下座するのです。
その姿を見下ろしながら、自分でも驚くほど、心は静まり返っていました。
怒りも、悲しみも湧いてこないのです。
ただ、目の前のこの人は、もう完全に「他人」なのだと感じていました。
決定的な一言
数日後の夜、子どもを寝かしつけたあと、夫が再び涙ながらに「やり直したい」「こんなことで家族を壊したくない」とすがってきたときも、私はどこか冷めた気持ちで眺めていました。
夫の涙は、もう私の心には届かなかったのです。
私は静かに口を開きました。
「……あなたが消えてくれた方が、私の心は穏やかになれる」
まるで殴られたかのように固まる夫の顔。
言ってしまった、と思いましたが、不思議と後悔の念は一切ありませんでした。
それは、私の本心そのものだったからです。
静けさの中で
翌日、夫は何も言わずに荷物をまとめ、家を出ていきました。
もちろん、信じていた人に裏切られた痛みやショックが消えたわけではありません。
でも、それ以上に大きな安堵感が、私の心を包み込んでいました。
これから子どもを抱えてどう生きていこうか。考えるべきことは山積みです。
でも、もう夫に心をかき乱されることのない日々が始まるのだと思うと、深く息が吸えるような、不思議な解放感があったのです。
あの夜、私は夫との関係に、そして夫に振り回されていた自分自身に、別れを告げることができたのだと思います。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。