舌打ちの先にあった冷たい目
その日は、子どもを連れて区役所に行くため、ベビーカーで電車に乗りました。
エレベーターを使い、乗車位置も確認して準備万端だったのですが、いざ電車に乗り込むと、乗客のひとりが露骨に舌打ちしました。
その男性は、ベビーカーが少しでも邪魔だと感じたのか、こちらを睨むように見てきて、私は一気に萎縮してしまいました。
赤ちゃんが静かに寝てくれていたことだけが救いでしたが、心はざらざらと痛みました。
降りるのが怖かったホーム
目的の駅が近づくにつれ、私はますます不安になっていきました。
「また迷惑そうに見られたらどうしよう」「エレベーターの位置、合ってたっけ」
周囲の目も気になって、降りるタイミングを見計らうのも一苦労でした。
扉が開いた瞬間、私はそっと動き出そうとしたのですが、また別の乗客がため息をつくのが聞こえてしまい、胸が締めつけられました。
思いがけない声かけ
そんなとき、後ろから「持ちましょうか?」と優しい声が聞こえました。
振り向くと、若い女性がにっこり笑ってベビーカーを持つのを手伝ってくれました。
「赤ちゃん、ぐっすりですね。かわいい」と、まるで空気が変わったようにあたたかい言葉をかけてくれたのです。
その一言に、涙が出そうになりました。
人の目を気にしてばかりいた自分が、少しだけ報われた気がしました。
小さな親切が、公共の空気を変える
公共の場では、いろんな人がいて、いろんな考えがあります。
でも、あの女性のように一言かけてくれる人がいるだけで、空気は確実に変わるのだと実感しました。
それ以来、私も駅で困っていそうな人を見かけると、勇気を出して声をかけるようにしています。
公共の場所だからこそ、ちょっとした思いやりが大きな支えになるのだと思います。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。