友人S美の話です。
S美は玄関が別の二世帯住宅に義家族と暮らしています。生活はそれぞれ分けていますが、義母は夕飯後の時間を見計らって訪ねてきては、世間話をして帰っていくのですが──

柚子の収穫

以前は週に数回だった来訪が、最近では毎晩に増えました。理由は庭に植えた柚子の木です。
義母は手が届く範囲の柚子を収穫したものの、上の方にまだ実がたくさん残っていて、それがどうしても気になる様子。
しかし、S美は昨年から四十肩を患っており、腕が上がらない状態です。痛みがひどいと運転すらできません。それを義母も知っているはずですが、直接頼むことはせず、
「手が届かなくてねぇ……」
と遠回しにS美へ収穫を促すのです。S美は何度も「肩が痛いので無理です!」と伝えてきましたが、効果はありません。

毎夜の来訪

それだけならまだしも、義母は毎晩のように
「今から上がってもいいかしら?」
と連絡をしてくるようになりました。そして、上がり込んでからは柚子の話ばかり。
S美にとっては迷惑ですが、実は夫にとっても深刻な問題でした。

夫は夕食後のリラックスタイムを何より楽しみにしている人で、テレビを観たり趣味の時間を大切にしています。
義母の来訪によってその時間が邪魔されることに我慢がならなくなっていたのです。
子ども達も含め、家族全員が「また柚子の話か」とウンザリしていましたが、対応はS美任せ。夫も表面上は無視していましたが、ついに限界が来ました。

夫が収穫

ある晩、義母がまた柚子の話をし始めたところで、夫が声を荒げました。
「もういい、俺がやる!」

そして休日、夫がついに柚子を収穫してくれたのです。義母はここぞとばかりに他の用事も頼もうとしてきましたが、夫は柚子だけ収穫するとすぐに家へ戻ってしまいました。

取り戻した静かな夜

こうして義母の来訪は週に数回へと減り、ようやく静かな夜が戻ってきました。S美家族は久しぶりにリラックスした時間を満喫。
「でも……自分で収穫できないものを植えるのは、やめてほしいな」
S美は心の中でそうつぶやき、ようやく一息ついたのでした。

【体験者:50代・筆者、回答時期:2025年2月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。