母の住む実家は瀬戸内海の島にあります。
島には小さなスーパーが2軒ほどあるだけで、実家に帰省する際には、必要な物資を購入して帰るのが恒例となっていました。
船に乗る前の恒例行事
帰省前日もしくは当日出発前には必ず、私は母に電話をします。
「必要なものはない? 前に言ってた物だけでいい?」 と念入りに聞くことにしていました。
船でしか行けない島なので、「あっ、忘れた!」 では済まないからです。
それでも、母は毎回決まって「追加はないよ」 と答えます。
その言葉を信じ「準備万端!」 と安心して帰省の準備をするのですが……。
島に着いて実家の玄関を開けるなり、母が満面の笑みで出迎えます。
ところが、しばらくすると、「あれが足りなくてね、次回来るときにこれも買ってきてほしいのよ」
と、次々に“後出し注文”が始まるのです。
母の「後出し注文」に振り回される
「えっ、数時間前に聞いたばかりなのに……!」 と内心驚きますが、母は悪びれる様子もなく、
「あ、言うのを忘れてたわ」と笑うのです。
私の勤務の都合で、次の帰省は2週間後になることもあります。
「それまで不便じゃないの?」と聞いても、母は「急ぎじゃないから気にしないで」 と言いますが、私はどうにも心配でなりません。
「必要なものを事前にリストにしておいてほしい」とお願いしても、「顔を見たら思い出すのよね」
と、やはり笑顔で返されるだけです。
顔を見たら思い出す理由
ある日、「そんなに急ぎじゃないのに頼む理由って?」と母に聞いてみたのです。
すると母は少し照れたように「買い物を頼むと、また来てくれるでしょ?」と、少しはにかんだ笑顔で言いました。
私はその言葉にハッとしました。
もしかすると、買い物の“後出し”は不便さだけではなく、私が帰省する理由を作りたかったのかもしれません。
「そんなことしなくても、またすぐ来るよ。」 と伝えるのですが、本当に「顔を見たら思い出す」のではなく、顔を見て「また来てくれるかな」 と安心して言えるのだと感じたのです。
振り回されても、母らしさを愛おしいと思う
島の不便さを知っているので、振り回されるのは正直疲れます。
「次回はちゃんと計画的に言ってね」 と毎回お願いするのですが、母の癖はなかなかなおりません。
それでも、玄関で私を迎える母の笑顔や、帰り際に「ありがとう、助かったよ」 と嬉しそうに手を振る姿を見ると、何だかそれも悪くないと思えてきます。
帰省のたびに振り回されるけれど、これも母らしさかなと感じる出来事です。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2024年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:Kiko.G
嫁姑問題をメインテーマにライター活動をスタート。社宅生活をしていた経験から、ママ友ネットワークが広がり、取材対象に。自らが離婚や病気を経験したことで、様々な悩みを持つ読者を元気づけたいと思い、自身の人脈や読者の声を取材し、記事として執筆。noteでは、糖尿病の体験記についても発信中。