旅行のお土産を買ってきたけれど
Sさんは当時小さな文具メーカーで勤務していました。繁忙期を除けばとても平和な職場で、毎日午後になると「おやつの時間」といってお菓子が配られるなどとてもアットホームな雰囲気。
ある日Sさんは温泉旅行に行くために休暇をとり、職場にお土産を買って帰ってきました。
「冷蔵庫に入れとこっと」
お土産は冷やすと美味しいゼリーで、Sさんはおやつの時間にそれを配ろうと職場の冷蔵庫に入れておきました。
「みなさん! 差し入れ頂きましたのでどうぞ」
まだ午前中だというのに、ひとりの女性社員がお菓子の箱を持ってやってきました。
「あ、ありがとうございます……ってこれ、私が買ってきたやつと同じ!?」
Sさんは自分が買ってきたゼリーと同じ差し入れがあったのかと思い、慌てて冷蔵庫に確認に行きました。
「ゼリーの箱がない! やっぱりあれは私のお菓子じゃない! 」
Sさんは冷蔵庫を確認し、オフィスに戻りました。
勝手に配られてしまい……
「これどこからの差し入れ?」
ゼリーを受け取った男性社員が、配っている女性社員に聞きました。
「さあ、わかんないです」
「そ、そうなんだ……」
ケロッとして答える女性社員。実はその女性は人のお菓子を勝手に食べたり、1人ひとつと言われたお土産をこっそり何個も持って帰ったりすることで、職場で少し浮いた存在でした。
「それ、私が買ってきたお土産なんだけど。できれば私が自分で配りたかったな」
Sさんはその女性社員に言いました。
「えー、どっかからの差し入れだと思って配っちゃいました。どうせあとで配るんだし、手間が省けて良かったんじゃないですか?」
女性社員はそう言ってふてくされた顔をしました。
「そんな言い方ないでしょ、だいたい差し入れはいつも企業名を書いて冷蔵庫に入れてるじゃない! なんで勝手に配ったの? 普通確認しない?」
他の女性社員に注意されても、本人は知らん顔でゼリーを開け、Sさんにお礼も謝罪もなしに食べ始めました。
「あーおいしい。早く食べたかったんですよね、私」
「はあ」
あまりに開き直った様子に、周りのみんなはドン引き。
それをきっかけに、社員はみな冷蔵庫にお菓子を入れる際は差し入れの時だけではなく、お土産でも自分の名前を大きく書くようになったそうです。
早く食べたかったにしても、さすがに人が買ってきたお土産を勝手に配るのはマナー違反ですよね。良かれと思って配ってくれたのかもしれませんが、せめて一言「誰からのお土産かな?」と配って良いかを周りの人に聞いて欲しいものです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:齋藤緑子
大学卒業後に同人作家や接客業、医療事務などさまざまな職業を経験。多くの人と出会う中で、なぜか面白い話が集まってくるため、それを活かすべくライターに転向。現代社会を生きる女性たちの悩みに寄り添う記事を執筆。