お隣さん
私たちの住んでいる地域では1ヶ月に1回、町内会の掃除があり、強制力はないといえど基本的には全員参加が求められています。
仕事がある人や高齢者世帯は別ですが、それ以外の世帯は欠席の場合、1回につき500円の不参加金を支払うことが決められていました。
我が家の隣人は、30代の夫婦と2人の子どもの世帯。
3年ほど前に引っ越してきたのですが、とても非常識な一家で、夜中まで友人たちとお酒を飲んで大騒ぎをしたり、学校の当番をすっぽかしたりするような人たちでした。
不満爆発
ある年、私が町内会の班の班長になり、月1回の掃除を仕切ることになりました。
そこで例の隣人家族はというと、一生懸命掃除に参加する人たちの真横を「たった500円で掃除やらなくていいなんて楽ね~!」などと言いながら、ワイワイ騒ぎつつ遊びに出かけて行くばかりでした。
言葉のとおり不参加のお金は払ってくれていましたが、皆で協力しあって参加しているのにその態度は少し思いやりがないのではないか、と同じ班の人たちもモヤッとした気持ちになっていたようです。
「みんな忙しいけど、協力するために都合をつけて出席しているのに……」「あの人たちはどういう神経をしているんだ!」と次々に不満が噴出。
毎月のことなので、このままでは良くないということになり、何人かの古株の人たちが直接話し合いに行くことになったのです。
直談判
ある休日のこと。
その日も掃除に参加しなかった『お隣さん宅』へ、私を含む数人で訪問しました。
出てきたのは奥さん。
私たちは突然の訪問について恐縮した後、本題についてお話しました。
「お忙しいのは分かりますが、掃除に参加できそうな時はできれば参加してほしいのですが。もし不参加であれば、ほかの人もわざわざ都合をつけて参加してくれているので、挨拶など少しご配慮いただくことはできますか」と私は言いました。
こちらは丁寧に話を進めたつもりですが、奥さんはとても面倒臭そうな対応で、「はいはい」と言ってあまり話を聞いていない様子でした。
すると、その態度を良く思わなかった年配の男性・Tさんが「自分たちが住む地域は、自分たちで守っていくものでしょう。だから少しだけでも協力してくれないか?」と言ったのですが、奥さんは「お金払えばいいんじゃないの? 別に雁首揃えて掃除しなくったっていいんじゃない?」と言い出したのです。
奥さんの後ろには、小学生の子どもたちがいて「ママ、どうしたの?」と心配そうに様子を見ていました。
優しくも鋭い一言
結果的に押し問答となってしまった中、子どもたちはとても不安そうな顔をしており、私が(これ以上続けても子どもたちがかわいそうだな……)と思い、「今日は帰りましょう」と皆に言いかけたその時でした。
今まで黙っていた年配の女性・Nさんが「可愛い子どもたちのためにも、親が率先して他人と協力しあったり、思いやりのある態度をとるのは大切なことだと私は思うわ」と優しくつぶやいたのです!
この一言に奥さんはびっくりした様子。
「もう帰って!」と追い返されてしまいました。
Nさんは小学校の評議員を務めている人。
掃除の不参加よりも、子どもたちへの影響を心配していました。
翌月
Nさんの言葉が功を奏したのか、次の月から掃除には旦那さんが参加してくれるようになりました。
奥さんは相変わらず、顔を合わせても挨拶もしませんが、きっとNさんの一言が刺さったのだ思います。
子どもは親の背中を見て育つもの。
最初は相性が悪いと思っていた隣人家族も、子どもを思う気持ちは私たちと同じだったようです。これからは私も彼らと良い関係を築いていけるといいな、と思った出来事でした。
【体験者:40代女性・主婦、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ltnライター:RIE.K
国文学科を卒業し、教員免許を取得後はOLをしていたが、自営業の父親の病気をきっかけにトラック運転手に転職。仕事柄多くの「ちょっと訳あり」な人の人生談に触れる。その後、結婚・出産・離婚。介護士として働く。さらにシングルマザーとして子供を養うために、ファーストフード店・ショットバー・弁当屋・レストラン・塾講師・コールセンターなど、さまざまなパート・アルバイトの経験あり。多彩な人生経験から、あらゆる土地、職場で経験したビックリ&おもしろエピソードが多くあり、これまでの友人や知人、さらにその知り合いなどの声を集め、コラムにする専業ライターに至る。