旅に出るとなれば、まず目的地の宿泊施設を予約することが大切ですよね。いざ行ってみて泊まるところがなかったら大変です。今回はそんな宿泊予約にまつわるとんでもないトラブルに巻き込まれてしまった私の知人Eさんから聞いたお話です。

フロントに現れたお客様

当時Eさんは地方都市のホテルのフロント業務に就いていました。

そのホテルは地元で唯一の大きなホテル。観光地ではあるものの宿泊施設が少ないその地方では、週末はいつも満室になっていました。

「いらっしゃいませ、お名前をお願いいたします」
ある週末の夕方、Eさんはフロントに現れたひとりの中年女性に声をかけました。
「〇〇です」
Eさんはその女性の名前を検索したものの、当日の宿泊予約の中にその女性が言った名前は見当たりません。
「あれ……」
再度調べてみたところ、女性が予約をしたのはその翌日であることがわかったのです。

「恐れ入りますお客様、ご予約は明日で承っておりますが」
Eさんがそう伝えると、女性の口から出たのは驚くべき言葉でした。

満室のホテルで……

「ああ、日程を間違えちゃったのよ! 1日早いけどいいでしょ? 明日はキャンセルでいいから、とりあえず部屋用意してよ」
Eさんは空いている部屋を確認しましたが、残念ながら満室でした。
「残念ながら本日は満室でございまして……」
「え、ダメなの? なんとかしてよ。キャンセルとかないの?」
「はい、皆さんチェックインされております」
「えー!!! じゃあどうしろってのよ」
女性客は大きな声でゴネはじめました。

「ここから少し離れたところでよろしければ、ビジネスホテルが」
そう言いかけたEさんを遮るように女性は言いました。
「ダメダメ、私狭い部屋ダメだからビジネスホテルは嫌なのよ」
Eさんは困り果て、とりあえずホテル近辺の宿泊施設を調べようとしました。
「もういいわ!」
女性はフンッと鼻息荒く言い捨ててフロントを離れ、大きな荷物を引きずってロビーのソファにどすんと腰を下ろしました。