コーディネートの足元を彩るシューズ。デザイン性はもちろん、快適さにもこだわりたい大人世代におすすめしたいのが、日本発のシューズブランド【KATIM(カチム)】。ドイツ式の整形外科靴学を学んだ女性ディレクターが手掛けるのは、エッジのきいたモード感のあるデザインと履き心地の良さを両立した、永く履ける美しいシューズ。今回はブランドの代表でクリエイティブディレクターの小坂英子氏にインタビュー。KATIMのシューズ作りに込めた想いをうかがいました。
画像1: 出典:KATIM
出典:KATIM

ー最初に小坂さんのご経歴、KATIMを立ち上げたきっかけを教えてください。

「学生時代のアルバイトもアパレルを選んでいた流れから、自然とファッション業界に就職しました。初めは海外営業、途中から生産部門に回ってシューズの分野で工業的に靴を作る工程を学ぶこととなりました。その後、アシスタントを経て独立を決めてから前職で得たシューズの生産の知識に加えて、もう一つ軸を持ちたいと考え、ドイツ式整形外科靴学の知識を身につけ、そのエッセンスをプラスしたフットウェアを作ろう、と決めて自分のブランドを持つスタートを切りました」

―“エッセンスをプラスしたフットウェア”というのは具体的にどういうものでしょうか?

「ドイツ式整形外科靴学というのは医療的な観点から履き物を構築するため、例えば6cmや7cmのハイヒール、ポインテッドトゥ、キトゥンヒールなどはその範疇から外れてしまいます。KATIMのシューズはあくまでファッション小物としてのシューズなので、整形外科靴ではないということは常に明言するようにしています。デザインや型紙のラインを決めるときや木型の開発をする時などに、2つの選択肢で迷ったらその観点を用いて足入れや歩きやすさを優先して取捨選択をする、というような取り入れ方をしています」

―KATIMのシューズは、「大量生産ではなしえないフットウェアを作りたい」という思いから、製造工程において限界まで手作業を取り入れているそうですが、こだわりの背景について教えてください。

「“大量生産ではなし得ない”と“限界まで手作業を取り入れる”というのは本質的には同じことです。この2つの表現をした経緯には、靴は工程ごとに作業する人が変わる分業制であること、また天然素材を使用する上では素材一つ一つが貴重なものであるため、自分達の作りたい靴はその一つ一つの工程に手間を掛けて仕立てる価値のあるものと考えているからです。素材に対して真摯に取り扱うべきであるということから、素材と設計がマッチして最大限の効果を発揮するためにも、ヒトの手で一つ一つ丁寧に素材と工程に向き合って作る必要があり、工程を担うそれぞれの職人の声を身近で聞きながら取り入れることで、生産現場のやりがいと技術の高め合いを共有できるという実感がありました。また、工程ごとに予期せぬ事態が起これば現場にお邪魔して相談させてもらうので、ペースは落ちますが細かく微調整が効くこと、その都度職人さんの体調やライフステージの変化などに気がつける点も良い点ですね。

ここでいう大量生産とは、安価な資材を大量に仕入れ、製品を仕様書通りに機械で効率よく一気に量産し、出来上がったものから検品時に不良品を廃棄、安価で売れるだけの数を捌いて売れ残ったものは廃棄するという生産方法を指しています。

私たちが使用させて頂いている天然皮革は、使用したい面に傷跡があったり色斑があったり、場所によって伸び方や伸びる方向が違っていますから、大量に仕入れて一気に沢山作った後で傷のあるものは検品時に弾いて廃棄する、という考えではその素材の価値と経緯に見合った使い方とは思えませんでした。受注して必要な分だけを仕入れ、レザーの個性を裁断のプロに肉眼で見抜いてもらい、できる限り使えるところは無駄なく使い切れるよう検品して使用部位を決めていきます。

そして靴を履く人間にもそれぞれに個性があり、右足と左足でも形や使い方に違いがあったり、歩くときと立ったとき、暑い季節や寒い季節、体調による浮腫みなど常に形状が変化します。その上フィット感にも人それぞれ好みがあります。

私たちの考える良い靴とは、コーディネートにスパイスを与えると同時に、目的地まで辿り着くための歩行を助け、足を保護するためのもの。そのため、美しいだけではなく足を包み守ることが出来る程度の堅牢さ、履くごとに履くそれぞれの足の動きのクセや個性、その変化にあった馴染み方をするしなやかさと、馴染んだあとに何年も何年も履き続けながら愛着と信頼を育て、経年変化を楽しむことが出来る耐久性も求められます。

現時点ではそのすべてをカバー出来る唯一の素材であり、機能的に見ても非常に優秀な素材であることからレザーを選んでおり、選んだからにはそれに見合った作り方をしています」

画像: 両サイドのカットによって、母指球と小指球の関節がフリーになるので圧迫感のないフィット感を実現。アッパーには柔らかな低反発のスポンジを挟み、足を優しく包みます。ソックス合わせもおすすめの1足。 katim.sc出典:KATIM

両サイドのカットによって、母指球と小指球の関節がフリーになるので圧迫感のないフィット感を実現。アッパーには柔らかな低反発のスポンジを挟み、足を優しく包みます。ソックス合わせもおすすめの1足。

katim.sc出典:KATIM

―日本人の足に合わせて開発されたオリジナルの木型には、どのような特長があるのでしょうか?

「KATIMではローンチ前の段階で日本人の足を何十人もの足形を外郭線、ワイズ、親指の高さ、アーチのカーブ、センターラインの角度、母趾球の角度など細かく採集し、社内メンバーと専門家の指示を受けながら、解析したデータをもとに足入れにこだわったオリジナルの靴型を制作。その木型の意図を汲んだオリジナルの型紙を社内開発することから始めました。この靴型は曲線が強いため機械生産型の工場で使われている機材との相性が必ずしも良いわけではなく、万が一機械で一気に仕立てた場合は、出来上がったものを見れば設計的に施されるはずであった手仕事を省いたかどうかはすぐに分かります。

次に、量産として安定的なクオリティのシューズを世に送り出すには、素材を目視で確認して使用箇所を決め、裁断やヒール打ちなど機械で正確に行うべき工程は目視しながら機械で行い、関節に当たる部分や踏み返しに関わる柔軟性と耐久性が求められる部分は熟練した職人の手作業で、素材の個性に合わせて臨機応変に仕立てる、という製法に共感してくださる数少ない工場を探し、説得して仕事も受けてもらうことになりました。

画像: 歩きやすい5センチヒールを組み合わせた、さまざまな着こなしにマッチするポインテッドトゥシューズ。足の指を圧迫しない、広めのワイズに長めのノーズが特長です。 出典:KATIM

歩きやすい5センチヒールを組み合わせた、さまざまな着こなしにマッチするポインテッドトゥシューズ。足の指を圧迫しない、広めのワイズに長めのノーズが特長です。

出典:KATIM

木型と型紙はセットですからその開発、素材選びを自社で担っており、どの工程も他社と共有することはないため、クオリティを管理しやすいという利点があります。またお客さまにとっても気に入った木型を見つけたらTPOによってデザインを履き分けていただけたら、という思いもあります。さらに、脱ぎ履きの多い日本人の生活様式に合う着脱のしやすさを考慮したデザイン、型紙にもこだわりがあります」

画像: 精巧な型押しが美しいパイソン柄の牛革を使用、サイドは手作業で仕立てた差し編みのメッシュで通気性と伸縮性を備え、ストレスフリーな履き心地に。 出典:KATIM

精巧な型押しが美しいパイソン柄の牛革を使用、サイドは手作業で仕立てた差し編みのメッシュで通気性と伸縮性を備え、ストレスフリーな履き心地に。

出典:KATIM

―デザインや素材選びにおいて大切にしているポイントは何ですか?

「永く履いてほしいという思いから、経年劣化や履きジワが入ってきても美しく見えるように、パイピングを入れる位置、ラインを入れる位置は足が屈曲した時のシワを考慮したところに入れるようこだわっています。

素材選びでは、例えばアクティブに動く日に合わせるようなデザインのものはしなやかなレザーを使い、カッチリした雰囲気に合わせやすいデザインのものは経年でツヤを楽しめるような素材を選んでいます。

カラーはブラックなどのベーシックなものが基本ですが、シーズナルカラーはお洋服との相性を意識しているかもしれません。トレンドカラーそのものを取り入れるというよりは、トレンドカラーの足元だったら、というような形でかなり時間をかけながら熟考して決めています」

画像2: 出典:KATIM
出典:KATIM
画像: リラックス感のある見た目とカッティングの美しさを兼ね備えたフラットサンダルは、サイドから見ても上から見ても印象的なたたずまい。カジュアルからきれいめまで、さまざまなスタイリングにマッチしそう。 出典:KATIM

リラックス感のある見た目とカッティングの美しさを兼ね備えたフラットサンダルは、サイドから見ても上から見ても印象的なたたずまい。カジュアルからきれいめまで、さまざまなスタイリングにマッチしそう。

出典:KATIM

―近年ファッション業界でもサステナビリティや環境意識が高まっていますが、ブランドとしてこの動向にどのように対応されていますか?

「弊社では在庫はごく少量しか持たず、基本的に受注生産をいう形をとっています。安価な資材を大量に仕入れて大量に作り、売れ残ったものを大量に廃棄するという考えではなく、熟考した設計を用いてそれに見合った素材を厳選して必要な分だけ仕入れ、必要な分だけ大切に作って送り出し、永く履いて頂くという考えを前提として生産しております。とはいえ、限られたモデル数、限られたサイズレンジの新品の革靴を履いた瞬間からお一人おひとりの好み通りにフィットさせるという事は中々現実的ではありません。そこでKATIMでは製品として送り出した後のフィッティングサービスにもとても力を入れています。

足に当たる部分にストレッチャーというシューズを部分的に伸ばす道具を使ったり、少し緩く感じる部分に自社開発した独自のパーツを使用して空間を埋めたりして、履く方に合わせたフィッティング調整を施したり、履き馴染むごとに出てくる色褪せや革のめくれなどを補修したり、ポリッシュして雰囲気良く仕上げる“KATIM SHOE CARE & FITTING TOUR”で、全国各地を周るイベントを毎シーズン開催しています。

地域ごとのお客さまの生の声をお聞きできる貴重な機会なので、新しくお迎えしていただく時の嬉しそうなお顔や沢山履き慣らしたシューズを拝見するのがメンバー一同の楽しみになっています。履き古した靴をメンテナンスしてお返しするというのは、一見売り上げを伸ばすことと逆のことをやっているように見えるかも知れませんが、せっかく馴染んだ靴をまた長く履けるようにしてもらえた、という安心感をご提供出来たことで、結果としてリピーターも増えましたし、お気に入りの木型で毎シーズン新作をお迎えしてくださるようなお客様との関係を築くことが出来ているように感じます。

また、出来る限り使い切れるよう仕入れてはいますが、余ってしまった残革は関係先の小物用の資材として使ってもらったり、出来るだけ廃棄せずに活用できるように努めています」

―イベントでのお取組みも、お客様との関係性もKATIMならではで素敵ですね!最後に、今後ブランドとして進化させたいことや、新たに取り組みたいことはありますか?

「フィッティングとシューケアの分野はもっと発展させていきたいと思っています。フィッティングのオプションを増やしたり、まだ行ったことのない地域に行ってツアーの範囲拡大にも力を入れていけたら良いなと思っています。素材に関しては先述した通り、レザーは副産品ですから現代人の食生活の変化から副産品としてのレザーが手に入らなくなったりする未来の可能性をポジティブなものとして見据えて、レザーに代わる新しい素材のリサーチは常にしています」

画像: 小坂英子/KATIM 代表・クリエイティブディレクター。国内外のアパレルブランドで海外生産管理、海外セールス、デザイナーアシスタントを経て独立。今日の大量生産ではなしえない、これまでにないフットウェアをつくりたいという想いから、ドイツ式整形外科靴学を学び、2016 年春夏よりKATIMをスタート。 出典:KATIM

小坂英子/KATIM 代表・クリエイティブディレクター。国内外のアパレルブランドで海外生産管理、海外セールス、デザイナーアシスタントを経て独立。今日の大量生産ではなしえない、これまでにないフットウェアをつくりたいという想いから、ドイツ式整形外科靴学を学び、2016 年春夏よりKATIMをスタート。

出典:KATIM

ブランドのターゲットは特に決めていないそうですが、「時間をかけて持ち物を手入れしながらモノとの親和性を深めつつ、周りに流されずに精神的に自立している方の足元をイメージしながら作っている気がしています」と小坂さん。

素材を大切に扱うこと、製造工程の一つ一つにも細やかなこだわりが詰まったKATIMのシューズ。ただのファッションアイテムにとどまらない、永く履きながら育てていけるスペシャルな1足、この魅力はぜひあなたの足元で実際に感じてみてください。

Senior Writer:Kyoko Dehara

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