
「俺なんか見んわい」お通夜直前、喪主の弟が出したのは“シワシワ礼服”。世話を焼いた後、姉が慌てたワケ
シワシワの礼服
「大丈夫やろ。俺なんか見んわい」
母のお通夜の日、弟が取り出した黒い礼服はシワシワでした。
友引を挟んだため、お通夜までの日程には通常より一日余裕がありました。
昼食を食べ、弟とその後の段取りを確認しても、お通夜まではあと3時間ほど。
ようやく一息つけると思っていました。
「いやいや、あんた喪主やけど?」
このままではまずいと、葬儀会場の近所に住む従姉に連絡し、急きょアイロンを持ってきてもらいました。
私がやるの?
これで何とかなると思ったのも束の間、弟は礼服にそのままアイロンをかけようとします。
あて布をした方がいいと言っても「そんなん大丈夫よ」と、またしても気にしていません。
すると従姉と伯母も「テカテカになるから!」と慌てて制止。
なぜかみんなの視線が私に集まります。
「……私がアイロンがけします」
結局、私があて布をして弟の礼服にアイロンをかけることになりました。
聞けば、洗える礼服だったため、自分で洗濯して持ってきたとのこと。
弟なりに準備はしていたようです。
もう着ない?
「今度からクリーニングに出すか、早めに礼服を持ってきてね」
朝出せば夕方に仕上がる店もあると説明すると、弟はあっさり言いました。
「もう着ることないやろ?」
「49日とか、まだまだあるよ」
いい歳をした弟に礼服の準備まで説明することになるとは思っていませんでした。
母が元気だったころは、こうしたことも母が先回りしていました。
そして今、私も同じように弟の世話を焼いていたのです。
体験者の声
母の49日までは、7日ごとに実家へ帰っていました。
ある日、実家で目に入ったのは、きれいにクリーニングされて吊られている弟の礼服。「もう着ることないやろ?」と言っていたのに、弟は次に備えて自分でクリーニングに出していたのです。
「ちゃんと自分でできるんや」
そう思った次の瞬間、私は自分の礼服をまだクリーニングに出していないことを思い出しました。
弟にあれだけ言ったのに、今度は私の方が慌てることに。
家族には、つい「やってあげた方が早い」と手を出してしまいます。
弟のシワシワの礼服をきっかけに、本人に任せることも必要なのだと気づいた出来事でした。
【体験者:50代・筆者、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


