
変わってしまった日常
数年前、父が脳梗塞で倒れました。幸い大事には至らず、入院後しばらくして退院できたのですが、それまで温厚だった性格に変化が現れました。
以前なら気にしなかったようなことでイライラし、何かうまくいかないと、そばにいる家族のせいにするようになったのです。
そんな父を介護するのは、70代の母でした。
「今まで自分でできていたことができなくなって、精神的につらいのよ」
そう言って、病後の苛立ちを受け止めていました。
「大丈夫」と思っていた私
いつも冷静に対応する姿を見て、私は「お母さんは強いな」と感心するばかり。仕事と育児に追われていたこともあり、その優しさに甘えていました。
もちろん仕事が休みの日には実家へ行き、様子を見たり、入院中はお見舞いに行ったりしていました。それでも、父の生活を日々支えていたのは母です。
ところがある日、父から突然電話がかかってきたのです。
「お母さんが帰ってこない!」
慌てて実家へ向かうと、そこには怒り狂う父と、物が散らかった部屋。何度母に電話をかけても出ません。
「まさか、何かあったんじゃ……」
不安を抱えながら部屋を片づけ、食事を用意しました。
連絡はくるも……
それから約2時間後、ようやくLINEが届きました。
「迷惑かけてごめんね。今は、どうしても家に帰れない。少しだけ一人にさせて」
驚いて電話をかけると、近くの喫茶店で気持ちを落ち着かせているとのこと。そして、ぽつりとこう言いました。
「お父さんがつらいのは分かってる。でもね、分かってるのと、平気なのは違うのよ」
その言葉に、私は何も返せませんでした。
病気のつらさを理解し、いつも穏やかに接しているからきっと問題ない。私はいつの間にか、そう決めつけていたのです。
体験者の声
それからは、できる範囲で私も介護を引き受け、母が一人で過ごせる時間を意識して作るようになりました。
介護される本人がつらいのはもちろんですが、そばで支え続ける人にも休息が必要です。
父を理解しているから大丈夫とは限らない。あの日の出来事は、今でも私の心に残っています。
【体験者:40代、女性、会社員、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


