筆者の体験談です。

「とにかく早くしてください、うちの子は病気なんです!」
調剤薬局の受付をしていると、処方箋を握りしめた母親が駆け込んできました。
「病院での診察は終わったんです。うちの子病気でしんどいので早く薬を出してください!」
お子さんの体調を心配する気持ちは痛いほど伝わってきましたが、薬局は先着順です。
待合室には、同じようにしんどさを抱えた患者さんが何人も順番を待っていました。
私は、「承知いたしました。順番にお呼びいたしますので、おかけになってお待ちください」としか言うことができませんでした。
声を荒らげる母親と、黙々と手を動かすスタッフ
「早くしてください」「しんどいんです」と繰り返す母親に、どう説明しても納得してもらえませんでした。
私たちスタッフは、とにかく一番速いペースで手を動かし続けるしかないので必死で仕事をしていました。全員が全力で対応する静かな待合室に、その母親の声だけが響いていました。
隣の患者さんが放った、静かなひと言
そのとき、隣で順番を待っていた患者さんが母親にそっと声をかけました。
「病気のお子さんは心配ですよね。でも私も待っているんです。スタッフさん、一生懸命やってくれてますよ。『早くして』と言われることで、かえってスタッフさんの手が止まって、あなたのも他の方のも準備が遅れてしまうように思いますよ」
静かで的確な指摘でした。図星を突かれた母親は、少しばつが悪そうに「とにかく早くしてほしいです。お願いします」とだけ言い、待合席へ戻っていきました。
筆者の見解
誰も責めていないけれど、その場にいた全員が納得する見解でした。
スタッフ全員が急いではいたものの、待たせている申し訳なさを感じていた私は「ちゃんと見てくれている人がいるんだ」と救われた気持ちになりました。
余裕がないときほど言葉はきつくなりがちです。ですが、誰かがひと呼吸置いて場の空気を変えることで、クレームが対立ではなく「気づき」に変わることもあるのだと実感した出来事でした。
【体験者:40代・筆者、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


