
不安だった法事の日
離婚して数年がたち、仕事も生活もようやく落ち着きを取り戻した頃のことです。
旧姓に戻った当初は、書類などで自分の名前を見るたびに胸が痛みましたが、その生活にも慣れていました。
ただ、離婚してから親族が集まる場に出ることがなかったため、親戚の法事で久々に帰省することになったときは、少し不安になってしまいました。
「離婚のこと、何か言われるかな……」
そんな思いを胸に、緊張しながら実家へ向かったのを覚えています。
浴びせられた一言
法事が終わり、親族同士で何気ない会話をしていたときです。
厳格な叔母が突然、私の名字に話題を向けました。
「一度嫁いだのに、またうちの名字を名乗るなんて図々しい。この家の名字を使う資格なんてないでしょう」
あまりに突然の言葉に、その場は一気に静まり返りました。
誰も叔母を止めようとはせず、私は恥ずかしさと悔しさで頭が真っ白に……。
「来なければよかった」と、その場から消えてしまいたい気持ちでいっぱいでした。
祖母がくれた静かな言葉
重苦しい空気が流れる中、それまで黙っていた祖母が、ゆっくり口を開きました。
「この子は結婚して家を出てからも、私たちが困るたびに何度も助けてくれたよ。どんな名字を名乗るかより、この子が家族を大切にしてきたことのほうが、私はずっと大事だと思ってる」
さらに「離婚して元の名字に戻ることは恥ずかしいことじゃない。誰だって人生にはいろいろあるんだから。長いこと生きてて、そんなことも分からないのかい」と穏やかに続けました。
その言葉に叔母は黙り込み、親族も誰一人として何も言えませんでした。
ようやく肩の力が抜けた
法事が終わって帰る前、祖母にこっそりお礼を言いにいくと、祖母は私の手をそっと握り、声をかけてくれました。
「一度きりの自分の人生なんだから、胸を張って生きなさい」
その一言で、張り詰めていた心がふっと軽くなった気がしました。
結局、叔母から謝罪はありませんでしたが、もう親族で私の名字について口にする人はいません。
あの日を境に、誰にどう思われるかより、自分らしく生きようと思えるようになりました。
体験者の声
すべての人に理解されなくても、自分を大切に思ってくれる人がいれば前を向ける。そう実感した出来事でした。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


