
法事のあとに残る“お供え物”
その日は親戚が集まっての法事でした。
お経が終わり、食事も済み、少しずつ片付けが始まるタイミング。
祭壇の前には、お菓子や果物、飲み物などのお供えが並んでいました。
昔からの習慣で、「お下がり」として分けることになる流れです。
片付けをしている最中、叔父が何気なく言いました。
「じゃあこれ、全部うち持って帰るわ」
まるで当然のような口調でした。
周囲は一瞬、動きが止まります。
「え、全部?」という空気が流れました。
“早い者勝ち”のような空気
叔父は続けます。
「うちの方が人数多いし、どうせ余るでしょ?」
さらに紙袋を取り出し、詰め始めようとしました。まだ正式に分ける話も終わっていない段階です。
他の親戚も気まずそうに見ているだけでした。
その時、A子の母が一歩前に出ました。
声は穏やかでしたが、はっきりとしています。
「すみません、まだ分け方決まってないので」
叔父は少し不満そうに言います。
「そんな堅いこと言わなくてもいいだろ」
母は淡々と続けました。
「これは故人にお供えしたものなので、皆で分ける前提です」
「誰かが先に全部持っていくものではないと思います」
強い口調ではありません。
でも、“ルール”ではなく“考え方”として整理されていました。
周囲が一気に同調する
その言葉をきっかけに、他の親戚も少しずつ口を開きます。
「そういえば毎回ちゃんと分けてたよね」
「勝手に持ち帰るのは違うかも」
空気が少しずつ変わっていきました。
叔父は気まずそうに手を止めます。
最終的な“公平な分配”
その後、年長の親戚が間に入り、お供え物はきちんと人数で分ける形に落ち着きました。
大きな揉め事にはなりませんでしたが、一度乱れかけた空気はしっかり整えられました。
帰り道、A子は思いました。
親戚同士でも、“常識”は微妙に違う。だからこそ、誰かが静かに線を引かないと崩れることもある。感情的にぶつかるのではなく、落ち着いて整理することの大切さを感じた出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:池田みのり
SNS運用代行の職を通じて、常にユーザー目線で物事を考える傍ら、子育て世代に役立つ情報の少なさを痛感。育児と仕事に奮闘するママたちに参考になる情報を発信すべく、自らの経験で得たリアルな悲喜こもごもを伝えたいとライター業をスタート。

