子どもの不可解な行動に、「またか」と心のなかで叫ぶ毎日。息子の“独特な癖”に疲れ、叱っても、優しく言い聞かせても変わらない。そんな日々に心が折れそうになっていた筆者の友人・聡子さん(仮名)。相談先でかけられた、涙が出た一言。育児の苦しさと希望が交差する、とあるママの心の物語です。
画像: 宿題もノートもビリビリ!「またちぎってる、、、」育児に疲弊した私 → 相談員の『神アドバイス』に涙

終わらない“また”の連続に

「また関係ない物触ってる!」「またプリントちぎってる!」

私の友人・聡子さんは、小学生の息子の“独特な癖”に頭を抱えていました。
学校でも家でも、手元に紙があればビリビリと破ってしまうのです。
叱ってみても、優しく言い聞かせてみても癖は直りません。

宿泊行事の申込用紙も、計算ドリルも、ノートのすみも、宿題プリントも。
気がつけばちぎられ、細かく裂かれた紙くずが床に落ちているのです。

「なんでまた……」
何度も繰り返されるその光景に、どうしても怒りがこみ上げてしまいます。

しかし、怒鳴ったあとの自己嫌悪もまた、つらいものでした。
「私、怒りすぎてないかな……」
夜、一人で落ち込むこともあったといいます。

繰り返す行動と、苛立ち

ある日、宿泊行事の申込用紙を「明日出してね」と渡した直後、ほんの少し目を離したすきに「ビリッ」と音がしました。
気づけば、紙はパズルのように細かくちぎられていて、セロテープで貼り直しながら涙が出そうになったそうです。

「これ、また先生に出すんだよ!」「どうしてまたちぎるの……」
声を荒らげて叱れば叱るほど、息子は無言になり、ふてくされたように視線をそらしていきます。

反省しているのか、ただすねているだけなのか。
聡子さんはその見極めすらつかなくなって、自分の感情を持て余す日々。

叱っている最中でも、息子はテレビのリモコンや机の上の紙くず、ティッシュなど、目についた物をすぐ手に取ります。
「いま、話してるんだけど!」
言えば言うほど通じない気がして、がっかりするばかりでした。

授業参観で、他の子どもたちがまっすぐ黒板を見ている姿を目にするたび、
「うちは、どうしてこうなんだろう」と、つい比べてしまう自分がいたといいます。

「もう、誰かに助けてほしい!」
そう思った聡子さんは、地区の子育て相談窓口を訪ねる決心をしました。

うちの子も、同じ感じだったの

相談窓口で出迎えてくれたのは、見るからに経験豊富そうな、優しげな女性相談員でした。
安心した聡子さんは、思わず涙をにじませつつも、少しずつ言葉を絞り出しました。

ひと通り話を聞いたあと、相談員さんが返した言葉は

「ママさん。今、とってもつらいのよね」

そのひと言に、聡子さんは胸の奥がふっとゆるみ、言葉にならない思いが、ぽろぽろと涙になってあふれてきました。
しばらく黙ったままの聡子さんを見て、相談員さんは静かに微笑みながら続けました。

「うちの息子も、落ち着きなくて、そんな感じだったのよ」

その瞬間、張りつめていた心の糸が、ふっと緩んだ気がしたそうです。

「うちの子も、給食だよりや連絡帳、気がつけばビリビリ。
毎晩、セロテープで貼り直すのが日課だったのよ。もう、私なんて“テープ貼り職人”!」

「ラジオも目覚まし時計も、ぜーんぶ分解しちゃうから、何度寝坊したことか……。今思えば、懐かしいわね」

優しく、どこか誇らしげに語るその表情に、聡子さんも思わず涙が引っ込み、ふっと笑みがこぼれました。

「でもね、その子、今では工業機械のエンジニア。
紙をバラバラにしてた子が、今は精密な機械を組み立ててるの。不思議でしょう?」

「子どもって、本当に不思議。そして、育児は……あっという間に終わっちゃうの」

分かってくれる人がいた。自分だけじゃなかった。そんな安堵と嬉しさが胸いっぱいに広がり、今度こそ、聡子さんの目からあたたかい涙がこぼれ落ちました。

「大変だけど、いつか終わる。だからね、きっと大丈夫よ」
その言葉が、じんわりと胸の奥に響いたのでした。

あのときの言葉が、今も支えに

相談の後からの日々は、以前と違ったものになりました。聡子さんは息子にセロテープを手渡して、こう声をかけました。

「これ、自分でペタペタできたら、ママに教えてよ」

前は、破られたプリントを見るたびに、ため息しか出ませんでした。でも今は、「どこ貼ったの?自分で直せた?」と笑って話せる余裕が、ほんの少しだけ生まれてきたといいます。

もちろん、困ったことには変わりません。
でも「この子なりの何かがあるのかもしれない」と思えた瞬間、何よりも「相談できた」という安心感が、ふっと心を軽くしてくれたのです。

「子育ては大変だけど、いつか終わるから大丈夫」
相談員のあのひと言は、今も聡子さんの心を支えているそうです。

育児に“正解”はありません。
でも、誰かの経験が、別の誰かをそっと救うこともある。
それを実感した、大切な出来事でした。

【体験者:30代・パート、回答時期:2024年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:神野まみ
フリーランスのWEBライター・コラムニスト。地域情報誌や女性向けWEBメディアでの執筆経験を活かし、医療・健康、人間関係のコラム、マーケティングなど幅広い分野で活動している。家族やママ友のトラブル経験を原点とし、「誰にも言えない本音を届けたい」という想いで執筆を開始。実体験をもとにしたフィールドワークやヒアリング、SNSや専門家取材、公的機関の情報などを通じて信頼性の高い情報源からリアルな声を集めている。女性向けメディアで連載や寄稿を行い、noteでは実話をもとにしたコラムやストーリーを発信中。

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