私は小さなクリニックで看護師をしています。その日は、認知症の症状があるTさんの治療を担当していました。
Tさんは穏やかなおばあちゃんですが、症状の影響からか、たまにおかしな言動をすることがあります。
しかしその日は、いつもに増して様子が変で……?
画像: ftnews.jp
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誰かとずっと喋っているおばあちゃん

Tさんは認知症の影響で、食事を食べたことを覚えていなかったり、スタッフの顔がわからなかったりというのは日常茶飯事。
ですが怒ることはなくいつもニコニコしている方なので、職場では癒しのような存在でした。

その日もいつものように治療開始。
ベッドに横になっているTさんは、ずっと独り言を言っているように見えました。
しかしよく聞いていると、
「お宅は朝ごはんなんだったの?」
「あら〜! いいですねぇ。最近はスイカが美味しいものねぇ。」
まるで会話をしているようです。話し方もつまづくことなく、はっきりとお話をしています。

いつもは言葉になっていなかったりすることもあるので、Tさんがはっきり話しているのをあまり聞いたことがありません。
私は不思議に感じ、Tさんに声をかけました。

天井にいる……? 謎の話し相手

「どうしたんですか?」と声をかけると、「あそこにおばあちゃんがいるから、おろしてあげて」とはっきり言われました。
「あそこ」と言ってTさんが指を指したのは、天井。「あんなところに縛られて、かわいそうよ」と言われて、私を含め周りのスタッフは凍りつきました。
結局、その日の治療中Tさんは「誰にも見えない天井に吊るされている人」と楽しそうに話していました。
いつもは物忘れが激しく治療が終わったことも覚えていないほどなのに、その日は治療が終わった後も「あの人、おろしておいてあげてね」と言われました。退室するときも、天井に向かって手を振るTさん。

誰にも何も見えないけれど、誰かいるのでしょうか……。

ftnコラムニスト:うしさん


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