家族を亡くして悲しみに暮れている人に、お悔やみの言葉をかけるならまだしも「保険金いくらおりたの? 」などと聞いてくる無粋な人もいるといいます。今回は夫を失った後にお金のことで大騒動になってしまった、私の知人Yさんのお姉さんのお話です。
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若くして夫を失い……

Yさんのお姉さんはまだ40代半ばで働き盛りの旦那さんを、交通事故で失ってしまいました。小さいお子さんはまだパパが亡くなったことが理解できず、お葬式でもきょとんとした様子でお母さんの手を握っていました。
「お姉ちゃん、私にできることがあったらなんでも言ってね……」
お通夜とお葬式の間中、悲しみで倒れてしまいそうなお姉さんを支えていたYさん。お姉さんは気丈に振る舞っていましたが、なんとお葬式のお焼香に、招かれざる客がやってきたのです。

「あ、あの人……」
お姉さんはお焼香に並んでいる若い女性を見て顔面蒼白になり、Yさんに耳打ちしました。
「え、誰なの? 」
「……うちの人の愛人よ」
「え!? お義兄さん愛人なんかいたの? 」
Yさんは驚きつつも立ち上がり、その女性の元へ行きました。
「ちょっと、遠慮してもらえます? 」
するとその女性はフン、と鼻を鳴らして言いました。
「どうして? あの人は私を一番愛してるって言ってたのよ 」
「いいから出てってよ! 泥棒猫の出る幕じゃねえから」
なんとかその愛人女性を引っ張り出し、Yさんはお姉さんの元に戻りました。
「ありがとうね、Yちゃん……」
「いいよ、これくらいしか力になれないし」
そんな騒動がありつつも、葬儀は無事に終わり、Yさんの義兄は空へと旅立ちました。

金の亡者登場

月日は過ぎ、義兄の四十九日の法要の日がやってきました。Yさんがお姉さん家を訪れると、そこには義兄の母親や兄弟たちがずらりと集まっていました。
「あれ、みなさんお早いんですね……」
とりあえずYさんが挨拶をしましたが、義兄の親族たちはろくに応えもせずにお姉さんに詰め寄りました。
「あの子の保険金、いくらおりたの? ちょっと私たちに都合してもらってもバチは当たらないわよねえ? 」
「あなたたち何を言ってるんですか!? 今日は四十九日の法要ですよ! 」
慌てて立ち上がるYさんを、そっとお姉さんがなだめました。
「いいのよ、Yちゃん」
義兄が亡くなってから随分やつれたと思っていたお姉さんですが、今日は何故か生命力に満ち溢れた様子で1枚の紙を取り出しました。そこには家系図のようなものが書かれています。
「この書類にある通り、日本の法律では、主人の遺したお金は私と子どもの2人で分けることになっています。ご理解いただけなければ今から弁護士の先生をお呼びしましょうか? 丁寧に説明してくださるでしょうから」
実はYさんのお姉さんは、弁護士事務所の事務のパートをしていたんです。その事務所の先生がお姉さんをとても気にかけてくれていて、遺産の分け方について詳しく書いた書類を渡してくれていたのでした。
「何よそれ! 見かけによらずがめつい女ね! 」
そう言い残し、旦那さんの親族たちはさっさと出て行ってしまいました。
「法要はこれからなのにね、まあこれで気兼ねなく旦那を見送れるわ。とんでもない浮気野郎だったけど」
Yさんのお姉さんはさっぱりとした笑顔で言いました。

そして法要が終わり、皆で食事をとっていた時のことです。
「そういえばお姉ちゃん、あの愛人どうなったの? 」
そう尋ねたYさんに、お姉さんはまたにっこりと笑って答えました。
「うふふ。あの人の形見をせびりにきたから、代わりに不倫の慰謝料をたっぷり請求してやったわ。これでしばらく我が家も安泰よ。これから1人で子どもを育てていかなくちゃいけないからね」
「さすが! 」
Yさんはいつも優しく、たおやかに見えたお姉さんが、子どもを守るためにどんどん強くなっていくのを感じたそうです。

ftnコラムニスト:緑子

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